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Channel: アンデオール バレエ日和
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おっとり礼賛トリコロール ミハイロフスキー劇場バレエ『パリの炎』 11月21日(木)夜

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11月21日(木)、ミハイロフスキー劇場バレエ『パリの炎』を観て参りました。
https://www.koransha.com/ballet/mikhailovsky_ballet2019/



作曲:ボリス・アサフィエフ
振付:ワシリー・ワイノーネン
改訂振付:ミハイル・メッセレル
指揮:パーヴェル・ソローキン
管弦楽:シアターオーケストラトーキョー

ガスパール(農夫):ロマン・ペチュコフ
ジャンヌ(農夫ガスパールの娘):オクサーナ・ボンダレワ
ジャック(農夫ガスパールの息子):アレクサンドラ・バトゥーリナ
フィリップ(マルセイユの青年):ジュリアン・マッケイ
ディアナ・ミレイユ(女優):イリーナ・ペレン
アントワーヌ・ミストラル(俳優):ヴィクトル・レベデフ
ボールガール侯爵:ミハイル・シヴァコフ
ルイ十六世(フランス国王):アレクセイ・マラーホフ
マリー・アントワネット(王妃):アーラ・マトヴェーエワ
キューピッド:サビーナ・ヤパーロワ
テレーザ(バスク人):マリアム・ユグレヘリーゼ
バスクの踊り:ウラジーミル・ツァル
デニス・アリエフ セルゲイ・ストレルコフ オリガ・セミョーノワ

アレゴリック・ダンス
自由:イリーナ・ペレン、マラト・シェミウノフ
平等:スヴェトラーナ・ベドネンコ アンドレア・ラザコヴァ ユリア・ルキヤネンコ
博愛:ニキータ・ナザロフ アンドレイ・ヤフニューク


ボンダレワのジャンヌは気風の良い姐さんで、やや押しの弱い(失礼)マッケイのフィリップに並ぶと尚更。
粗削りな部分はありながらも体育会系な強いテクニックと統率力兼備で民衆を鼓舞するジャンヌ役は誠にお似合いでした。
革命に燃えてごった返している民衆がひしめく場面が多い中、何処においても目を惹く存在感もあり皆が慕うのも納得で
パ・ド・ドゥではマッケイをもはやリードしながら踊っていると見受け、コーダでの高速な盤石回転は竜巻の如し。
このグラン・パ・ド・ドゥ、複雑なサポートやリフトが無いためか発表会での初パ・ド・ドゥに選ばれ易く
ヴァリエーションはコンクールでも人気が高いようですが、ジャンヌはおリボン付けて可愛らしく踊る役では全くなく
革命を率いる女性が王政を打倒した直後に踊るわけですからむしろ勇ましさや逞しさが必要と捉えており
発表会を観る際にも本来の状況や場面設定が見えてくるように、全幕を踊っているかのように感じさせるか
つい重要視してしまう捻くれ者な我が身をお許しください。

話題沸騰らしいマッケイは革命に燃えて民衆を統率する青年にはもう一歩なところで
煌びやかな容姿を考えると王子や貴公子向きな印象を持ちました。
ボンダレワに負けじとテクニックを炸裂させようと健気に頑張ってはいましたが
ぴたりとはなかなかいかず。これから経験を重ねて舞台においても主役らしさが出てくると期待しております。
『眠りの森の美女』ゴールドはその名の通り煌く姿をこれでもかと発揮していたそうで
ファッション雑誌でもモデルをこなし、SNSを駆使した広報活動も上手いらしい。
昨年に遡る話だが、ソビエト連邦時代にモスクワで上演されていたプロダクションを
現代に即したものにしてミハイロフスキーが所有していると知ったある作品について調べる際、
リハーサル映像や舞台装置も写した写真も含まれているマッケイの投稿も参考になると
職人級バレエ精通者から教えていただきながら、生まれた頃にはカラーテレビは存在したものの
令和に入った現代においても華やかし映えたる写真投稿共有の使用方法や
閲覧方法が未だにしっかりとは把握できずにいる管理人。
慣れぬ操作を繰り返しやっとこさ投稿を閲覧できましたが、妙な自撮りばかりではなく(失礼)
舞台構造が分かる写真や舞台袖からとらえたリハーサル撮影映像も載っていて大いに参考になった次第です。

強烈な印象を残したのはペレン。冗長になりがちな宮廷舞踊の場においても
指先脚先の隅々に至るまで神経の行き届いた、光が零れそうな優雅な踊り方に
何度目を見張ったことか。長年トップを走り続けてきた経験に裏打ちされたベテランならではの味は溜息ものでした。
3幕での自由・平等・博愛をテーマとしたアレゴリックダンスにおける「自由」では
決して語彙豊富とは言い難い振付ながら、リフトされて横切るその姿だけでも女神降臨たる姿で場を圧倒。

この作品の全幕といえば、一昨年観たボリショイバレエによるラトマンスキー版が余りに衝撃で、
私の中での2017年来日公演一切の迷いなく1位の舞台であったほど。終演直後の時点で確信しておりました。
革命の勝利に酔い痴れる民衆が大多数な一方、愛する貴族の娘が処刑された父親の後を追って
自らも同じ運命を選んでしまい、悲しみに打ちひしがれた青年がやり場のない怒りを秘めながら幕が降りる
悲劇の両方がエピローグで描かれるなど、人間模様や感情が複雑に絡むドラマが詰まった作品。
更にはボリショイのお得意キャラクターダンスの炸裂も凄まじく
(鑑賞日はクリサノワ、ラントラートフ、サーヴィンのバレエ団叩き上げキャストが揃い、半端ないボリショイ魂であった)
加えてボリショイのオーケストラも爆音で盛り上げ、打楽器奏者付近に座っていたパートが休みである奏者たちは
鼓膜を守ろうと耳を塞いでいた光景に驚くも納得せざるを得ない熱の込められた演奏で
同じ東京文化会館が狂気の渦と化したのは今も忘れられぬ体験です。

対して今回のワイノーネン版では熱狂の波がうねったとは思えず、おっとり祝祭感なトリコロールながら
原典版を観るには良き機会。初演が1932年つまりはロシア革命から約15年後ですから、
ひたすら革命礼賛ソビエト万歳且つハッピーエンドで気運を高めねばならぬ作品になったのは
情勢を考慮すれば当然であり、その後いかにしてラトマンスキーが
一筋縄ではいかぬドラマを盛り込んで再構成したか、想像を掻き立てる公演にもなりました。

2点欲を言えば、1つは映像に頼り過ぎた点。宮殿へと攻め寄り門を無理矢理開けて突入する場面が
映像で済まされてしまったのは肩透かしを食らった気分でした。
2つ目は上品ではあったが日本のオーケストラによる演奏の迫力が今ひとつ。
爆音はオーケストラも帯同来日する来年のボリショイバレエ『スパルタクス』、首を長くして待とうと決意です。


ボンダレワへのインタビュー。笑みが零れる素敵な写真がたくさん掲載されています。
https://spice.eplus.jp/articles/250326



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鑑賞前に時間があったため御徒町のビストロ、ランビアンス ドゥースへ。
店頭で出迎えてくれたのはトリコロールリボンを付けたお洒落な豚さん、ジャンヌを踊りたいらしい。

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自家製シャルキュトリ盛り合わせと赤ワイン。

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バスク地方の郷土料理熟成豚バラ肉のピペラード。
揚げ卵やピーマンのトマト煮を合わせたボリュームある料理です。ワインが進みます。

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帰りは新国立常連の方々と上野駅構内のハイボールバーで乾杯。
ワイノーネン版とラトマンスキー版それぞれの魅力について語りました。
チーズクラッカーなるおつまみ、ちょうど良い塩気でおすすめでございます。


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