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構想から4年の一大プロジェクト 新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』11月2日(金)〜11月10日(土)

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公演から時間がだいぶ経過いたしましたがお待たせいたしました。
11月2日(金)、4日(日)、7日(水)、8日(木)、10日(土)昼夜の計6回
新国立劇場バレエ団2018/2019シーズン開幕公演
クリストファー・ウィールドン振付『不思議の国のアリス』を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/alice/


※短くまとめようと務めて参りましたが待ち侘びていた公演且つ連日通い詰めた思い入れの強さから困難極まり
罰として12月に『くるみ割り人形』ネズミの王様の奇襲に遭わぬよう気をつけて過ごします。

※詳細キャストはまた改めて書いて参ります。ひとまず新国立劇場ホームページより。

【11/2(金)19:00】
アリス:米沢 唯
ルイス・キャロル/白ウサギ:奥村康祐
庭師ジャック/ハートのジャック:渡邊峻郁
アリスの母/ハートの女王:エイミー・ハリス
手品師/マッドハッタ―:ジャレッド・マドゥン
アリスの父/ハートの王:輪島拓也
ラジャ/イモ虫:井澤 駿
公爵夫人:吉本泰久

【11/4(日)14:00】
アリス:米沢 唯
ルイス・キャロル/白ウサギ:奥村康祐
庭師ジャック/ハートのジャック:渡邊峻郁
アリスの母/ハートの女王:エイミー・ハリス
手品師/マッドハッタ―:ジャレッド・マドゥン
アリスの父/ハートの王:輪島拓也
ラジャ/イモ虫:井澤 駿
公爵夫人:吉本泰久

【11/7(水)13:00】
アリス:小野絢子
ルイス・キャロル/白ウサギ:木下嘉人
庭師ジャック/ハートのジャック:福岡雄大
アリスの母/ハートの女王:本島美和
手品師/マッドハッタ―:菅野英男
アリスの父/ハートの王:貝川鐵夫
ラジャ/イモ虫:宇賀大将
公爵夫人:輪島拓也

【11/8(木)13:00】
アリス:米沢 唯
ルイス・キャロル/白ウサギ:奥村康祐
庭師ジャック/ハートのジャック:渡邊峻郁
アリスの母/ハートの女王:本島美和
手品師/マッドハッタ―:福岡雄大
アリスの父/ハートの王:輪島拓也
ラジャ/イモ虫:井澤 駿
公爵夫人:吉本泰久

【11/10(土)13:00】
アリス:小野絢子
ルイス・キャロル/白ウサギ:木下嘉人
庭師ジャック/ハートのジャック:福岡雄大
アリスの母/ハートの女王:益田裕子
手品師/マッドハッタ―:菅野英男
アリスの父/ハートの王:貝川鐵夫
ラジャ/イモ虫:宇賀大将
公爵夫人:輪島拓也

【11/10(土)18:30】
アリス:米沢 唯
ルイス・キャロル/白ウサギ:奥村康祐
庭師ジャック/ハートのジャック:渡邊峻郁
アリスの母/ハートの女王:本島美和
手品師/マッドハッタ―:菅野英男
アリスの父/ハートの王:輪島拓也
ラジャ/イモ虫:井澤 駿
公爵夫人:吉本泰久

米沢さんのアリスはふわふわっとした可愛らしさがあり、殆んど地のままで踊っているような自然体。
のんびりおっとりしていそうな外見とは反対にスピード感やスタミナの持続力は天晴れなもので
奇想天外に富んだ冒険を試練含めて楽しんでいる様子で
中盤に披露するソロでは何度も問い掛けるようにして孤独感を募らせる心の内を
パワフルな踊りによる表現に魅せられました。

小野さんは意志と気が強いなかなか男前なアリス。ジャックに何が起ころうとも
自身に任せておくよう胸を叩いていそうな少女でした。
以前にも増して表現の奥行きが広まり、中でも身体が大きくなって
小さなドアから顔を出して歪めながらの暴れっぷりや、きのこを食べて泥酔寸前なクラクラ加減と
ほんの短い場面においてもジェットコースターの如く豊かな表情を次々と見せ、吸い付けられて目が離せず。

米沢さん小野さんそれぞれ全く異なるアリスを造形されていましたが、
全編通して舞台に登場し続けている役にも関わらず疲労感は微塵も感じさせず
強烈なキャラクター達の中にいながら埋もれることなく
幕開けのガーデンパーティーから現代まで舞台を引っ張っていらっしゃいました。
初演で非常に完成度の高いヒロインを作り上げたお2人に拍手。

渡邊さんのジャックはガーデンパーティー、不思議の国、現代それぞれの世界でまさに生きていそうな演じ分けで
衣装がまた全てお似合い。庭師の簡素な格好が勤勉で純朴な労働者そのもので
汗水垂らしながら庭の手入れを毎日行っている姿が想像でき
突然の解雇で悲しみを堪えながら荷物をまとめて上着を着用しハンチング帽?を被って去っていくところは
小津安二郎さんの映画に登場しそうな青年の趣き。(この例えについて会場で話したところ
古過ぎてよく分からぬと人生の先輩方の何名かに言われたが)背中から漂う哀愁感に胸が痛みました。
パーティーで寛ぐ周囲とは完全分離状態で自身だけ悲運に見舞われ、優しさからアリスにも当たらず
階級の事情を考えると納得いかずな心境をぶつける相手もいない。耐え難い苦しみ、孤独感であったと想像できます。
本島さんによる母と並ぶと女帝と家来状態。それだけ階級がしっかりと見える表現だったわけです。
日本人ダンサーが着こなせるか不安であった紅白パックリなハートの騎士の衣装も
すらりと伸びた体型によく合い、ポスターやチラシ、会場展示のパネルである程度予想はしていたとはいえ
生の舞台で観たときの良い意味での衝撃たるや驚きを覚えた次第。

ロイヤルシネマで鑑賞したときから最大の楽しみであった3幕裁判場面での無実を訴えるソロは
騒々しく無秩序な状態にある空間をも洗い流してしまいそうな内側から放出される感情や力強いジャンプが
ずしんと胸と目に迫り、心を突き動かされました。
タルトのお盆を手に大慌てで逃げ惑ったり、被告台の上では心配そうなお顔で大騒動をじっと見つめたりと
これまでにお目にかかったことがない表情もたっぷり鑑賞できた点も大きな喜び。
思えばこれまで新国立では王子貴公子が多く、トゥールーズ時代の映像では
鋭く怖い役を中心に見ていたためか、非常に新鮮味を感じながら鑑賞できました。

さて今シーズンもやります、髪型考察。前半2回と後半2回では変更が生じたようで
前半は5月の『白鳥の湖』ジークフリート王子のときに似たややハーフバックで後半は前髪多めの自然ヘア。
後者の方が好みではありますが、両方を堪能できましたので良しといたします。(くるみではどう来るか?)

福岡さんは優しさを持ち合わせながらも少し我が強そうなジャックで
何が何でもピンチを乗り越えようと勝気なアリスに負けじと奮闘する姿が印象に刻まれております。
全身全霊で熱く表現する3幕のソロも心にぐっとくるものがあり、女王たちの判断を覆す希望が見えかけたかと
話の展開を把握していても祈りたくなりました。
現代のジャックが着用するGパンにTシャツ姿は渡邊さんよりもさまになっていた気がいたします。

小野さんと福岡さんといえばこれまで多数の作品で組んでいらっしゃり
先日の新国立バレエ初の北海道公演である札幌での『白鳥の湖』の主演も務め、成功したのは記憶に新しいところ。
しかし予定調和な箇所は全く無く、パートナーシップは鉄壁ながら
アリスとジャックの間に生じる喜怒哀楽どの感情も鮮烈で、わくわくと胸躍る冒険へと導いてくださいました。

奥村さんの白ウサギはどこか可愛らしく心優しい、慌てん坊であっても鷹揚とした雰囲気。
8日だったか、アリスとジャックのパ・ド・ドゥ最中にアリスのポケットから赤い薔薇が落下してしまいましたが
さらっと拾って大事そうに手にし、化粧筆代わりのようにして自慢の長い耳をポンポンはたく仕草が可笑しく
ハプニングをも面白い方向へと持っていく即興演出に感激いたしました。
紙の舟に乗りアリスと冒険へと繰り出している際にはアリスに負けじと叫び声が聞こえてきそうな熱い口論で大笑い。

対する木下さんは気難しく神経質そうな白ウサギ。常時時間に追われ素早い振付をいとも簡単そうにこなし
中でも裁判場面の始まりのソロは恐ろしい速さにも関わらず、涼しい顔で難なく踊り切り
器用で高いテクニックの持ち主であると今更ながら感じた次第です。
奥村さん、木下さんともにルイス・キャロル(本で読んだところ衣装も髪型もそっくり)の
プロローグでは数学者らしい知性と細かそうな性格を匂わせ、
エピローグの現代ではアリスに夢の中で見覚えがあると言われるなり照れながらその場を去り
白ウサギの癖である頭を掻く仕草が夢の続きを感じさせてアリスの冒険のユーモアな余韻に浸ることができました。

アリスの母/ハートの女王のハリスさんは踊り慣れている役だけあって醸す恐怖感や支配力も十二分。
ガーデンパーティーでの怒り様はジャックのみならず他の人々をも萎縮させる迫力でした。
圧巻だったのは本島さんで、美貌が映えに映えて真っ赤な衣装や鬘は
本島さんのために考えられたデザインかと思わせたほどです。
美しくも眼力凄まじく怒りっぷりはまあ恐い。しかし、タルト・アダージオで
時折覗かせる可愛らしさに蕩けそうになり、恐いだけでない様々な魅力が凝縮した女王様でした。
恐怖に耐えながら従事する家来たちを応援したい一方懸命に家来と踊ろうと頑張る女王様にも声援を送りたくなり
チャーミングな色気も全開。両手でシャキンと決める首切りポーズの潔さや
アダージオ中における憎めないズッコケぶりも、豊富な舞台経験に裏打ちされた見せ方の心得があってこそ。
特に10日(土)夜公演の家来たちとの攻防戦はほんの細かな仕草であっても大きな笑いのツボとなり客席大沸騰でした。
アリスの上演決定が告知された頃からバレエ団ファンの間が最初に妄想した
役とダンサーの組み合わせであると思いますし、高い期待をかけていたわけですが
予想を遥かに上回る支配力に大感激でした。

そして大抜擢の期待に応えたのは益田さん。ここ数年『こうもり』メイドや『白鳥の湖』スペイン、
こども『シンデレラ』義理の姉など個性の強い役や舞台女優と唸らせる演技力で場を盛り立ててこられた経験が
まさに開花した大役。最初こそ緊張気味で、既に同じ役を何公演かこなしてきた
他のダンサーたちに支えられながらの印象もありましたが
ガーデンパーティーでのマダムな雰囲気もあり、短気でちょっと我儘なお母さんも板に付いていて
ほんのり寂しさを募らせたり、かと思えばプンプンと怒り狂ったりと変化のめまぐるしい表情も楽しい女王様。
最終日は更に弾けていたそうで、鑑賞できなかったのは残念。再演時も抜擢を望みます。

タップが上手いか否かよりもキャラクターにイカレ具合が嵌るかどうかが鍵になると分かった
手品師/マッドハッタ―は、マドゥンさんはタップの経験があるそうでこなれている印象。
最たるツボであったのは福岡さんで、登場から如何わしさや怪しさで場を覆い
この時点で笑いが込み上げてしまったほど。派手な鬘はいつぞやの
日本バレエ協会セルゲイエフ版『眠れる森の美女』求婚者たちの世界史コント風長髪カール鬘よりもずっと自然で
新境地開拓成功に居合わせたのは幸運な思いです。平日昼公演のみならず
他日も大勢の観客にご覧いただきたかった、これに尽きます。
2回鑑賞したジャックよりも1回のマッドハッターのほうがずっと脳裏に刻まれました。
菅野さんは1回目に観たときは「マジメハッター」な印象でしたが、ヘンテコな振付に対し
黙々端正に打ち込む姿のギャップが実は面白いと徐々に気づいていきました。
奇抜な衣装の着こなしが意外にも合っていた印象です。

ラジャ/イモ虫の井澤さんはパーティーでの登場からしてゴージャスで裕福なインド人そのもので
高級インド料理店のポスター起用に推薦したいほどの嵌りっぷり。
不思議の国では魔界の帝王級な妖しさを醸し、濃いお顔が暗めに塗った肌にも映えていて
群青色のハーレムパンツも絵になる姿。美女たちを率いる姿も違和感無く
お香の匂いが漂ってきそうな空間でアリスを導き、イモ虫の象徴ともいえる
両手でお腹をぐるぐると摩るような振付の滑らかな力強さにも釘付けとなりました。
裁判場面での水を得た魚のようなソロで、その場にいる女王や女性たちが
パートナーを放ってまで惹かれてしまうのも納得です。

公開リハーサルにも参加されていた大抜擢の宇賀さんは、良い意味で初々しさを消していて
年齢が上に見え、心配していた貫禄も備えての好演。
所々お付きの女性たちがお姉さんに見え、支えられている感があったのはご愛嬌でしたが
床に吸い付くような軟体動物風な振付も柔軟性を生かしての力演で見事な披露でした。
4人のお付きの女性たちは両日どのダンサーも美人揃いで本家ロイヤルよりもすらりとした体型かもしれません。
寺井七海さんはこの手の妖艶エキゾチックな役柄はちょっとした身のこなし、しなり具合も絶妙で
もう1人目立っていたのは守屋朋子さん。3年間の登録期間を経て
昨シーズンより契約ダンサー(アーティスト)として入団され、色っぽいお姉様ぶりがさまになっていました。

公爵夫人はベテランの吉本さんと輪島さんがびしっと締め、
吉本さんのおよおよと弱気なところが可笑しく、紫色のドレスの着こなしが妙に合い
てんやわんやな料理女との場面においても間の取り方の上手さにはっとさせられ
混沌した調理場でのバトルであっても喜劇な可笑しさと
グロテスクな要素がバランスよく整備されていて嫌味がない展開でした。
カエルの宇賀さん福田圭吾さん、魚の木下さん井澤諒さんによる
姿勢正しく跳びはねながらの絡みも面白く、カエルと魚がソーセージ作りに協力するなど
本来考えられぬ設定であっても戦場と化した調理場に潤いを与えていたようにも感じます。

不思議の国の人々、動物たちはガーデンパーティーに関わっていた人物たちがそのまま現れる展開で
比較しながら観ると楽しさは倍。(初日は気づかず)
コーカスレースの動物たちの中で最も目を惹いたのは亀の赤井綾乃さんで
甲羅を愛おしそうに背負って皆が一目散に駆けていても1歩1歩マイペース且つ優雅な亀さん歩き、
ほんわかしたお顔立ちも役に合っていました。回転の素早さもお手の物で、
そういえば亀は突然ひっくり返ったかと思えば即座に体勢を直すこともあり
習性に重なる振付であると小学校の教室で飼育していた亀を思い出しながら鑑賞いたしました。
ウィールドンさんは先入観を持たずに階級問わず若手、プリンシパルやソリスト以外の抜擢にも積極的で
赤井さんに限らず役に合うと思えばどんどん役を当てていったと想像。

特に大当たりであったと唸らせたのは料理女の中田実里さんで
確か小野さんらと同期のため入団から約10年のベテランで現在ファースト・アーティスト。
これまで記憶が正しければDTF以外でのソロの役は初であり
細身な長身で、いつもコール・ドを引っ張る姿からはとても思いつかぬ破天荒な表現に驚かされました。
重たそうな包丁を手にしかめっ面でアリスや公爵夫人を怯えさせ
しっかりした技術も盤石で胡椒を掲げて振りながらのエシャッペ(恐らく。バレエ用語自信がない)も余裕綽々。
3幕で首斬り役人の兜を上げてうっとりにんまりする乙女な恋心をチラリと覗かせる一面もお茶目でした。

3幕幕開けの3人の庭師もあちこちの階級から集結し、女王様からのお叱りを受けぬよう
命懸けで白薔薇を赤く塗るものの努力の甲斐も虚しく白に戻ってしまう展開が笑いを誘い
どのダンサーも健闘でした。中でも井澤諒さん、原健太さん、渡邊拓朗さんは
身長のバランスはデコボコながら息がよく合い、華もあった印象です。

アリスの姉妹は2組。五月女さんはキャロルが本を読み聞かせていてもそっちのけで
未来の科学者を想起させる、虫に夢中な少女。朝枝さんは華やかで可憐なお姉さんといったところで
ファーストキャストにアーティスト階級の朝枝さんが抜擢されたのは嬉しい驚きでした。
飯野さんは夢見がちで空想好きな、小説家になりそうな少女。広瀬さんはしっかり者なお姉さん。
2組とも容姿技術とも文句無しで、アリスと一緒に踊るガーデンパーティーでのアレグロの場面も目に良し。

賛否両論あったのはアリスとジャックのパ・ド・ドゥの振付。あまりドラマ性がない、盛り上がりに欠けるなど
否定意見も耳にしておりましたが私はいたく気に入っており、踵グリグリのパ・ド・ドゥと勝手に呼んでおります。
ガーデンパーティー、不思議の国、現代それぞれ3つの世界で踊られる
2人のテーマとして核となっているパ・ド・ドゥで、手を取り合いながら並び
踵を付けたままグリグリさせながら(説明下手で申し訳ない)始まると甘酸っぱくも冒険心を掻き立てて
2人の強固な結び付きがそれはそれは心の奥にまで伝わりました。
パ・ド・ドゥ終盤のしんみりするような曲調が切なさを後押しして
思わず胸がキュッとなっていたのは毎度のことです。(特にファーストキャスト)

「日によっては」主役以上に注目してしまったのがタルト・アダージオでの家来たち。
『眠れる森の美女』とは異なって最初に誰も行きたがらない危険地帯へ出向く、
つまりは女王の手を取るのは誰にするか争いで、学級委員長な立場かどうかは分かりかねますが
最後はハートの2番が挙手して送り込まれるオチ。その後も命の危険と隣り合わせな状況で
ビクビク怯えながら女王のご機嫌を窺ってのはちゃめちゃな展開が待っているわけです。
ファーストキャスト日のハート2は福田圭吾さんで、百面相な表情で女王様に尽くして会場爆笑の渦。
対するセカンド・キャスト日は何をどうしたらこうも豪華になったのか不可思議な面々で
ハートの2番がジャックと兼任で渡邊さん。そして奥村さん、井澤駿さんまでが投入され
もはや家来ではなく貴公子勢揃い状態でした。しかし大泣き寸前なとことん情けない貴公子陣で貴重な場面。
締めには股間を激突させられるハートの2番、声なき絶叫で
見るからに痛々しいにも関わらず笑いが止まりませんでした。
10日(土)の昼は、同日夜に主要な役を務めるお3方も全く手を抜かず隅っこでイモ虫の真似をしたりと
演技がとにかく細かい。ハートやスペードなど各々のマークの形をしたシャンプーハットを被り過ぎたかの如く
貫通させて首に付けた姿も含め、嬉しくも笑いをこらえるのが困難な出血大サービスでした。

続いてイモ虫やマッドハッター、3月ウサギらが続々現れて行われる法廷での証言は
作品を彩ってきた奇想天外なキャラクター陣を一挙に振り返ることもできる
これまでの見せ所ハイライトな場面でもありいたく賑やか。そこへ弱々しかった王様がついに主張をして
ジャックに弁護の機会を与え、ソロへと突入。嵐のような展開ですし
じっと黙っていたジャックは皆の心を動かさねばならず、
これといって癖がないジャック役の難しさを物語っているとも感じます。

コール・ドの見せ場もきちんと用意され、1つ目のフラワーワルツは薄紫、エメラルドグリーン、黄色、オレンジと
柔らかな色彩の花を模した頭飾りやチュチュがいたく可愛らしく、
男性も同じ色調の上着付き衣装でセンスがすこぶる良いと思わせました。
途中からジャックが加わる流れにも引き込まれ、(出番が多いアリスは小休憩に入って欲しい気もしたが)
その後のパ・ド・ドゥそしてハートの女王が怒り狂って追っかけてくる展開には緊張感に襲われて
巨大な斧の装置が下りてきて休憩を知らせる演出効果もありいよいよ裁判場面への転換に期待を持たせました。

もう1つが3幕にて裁判場面への突入を盛り立てるトランプ・カード。疾走感と緊迫感漲る振付で
幕前で女性がずらりと並び、次々と同じポーズを取りながら駆けていったり
幕が上がると男女ペアで『シンフォニー・イン・C』にも通じるコの字の隊列を描いて
最後女性ははハート、スペード、クラブ、ダイヤ、それそれのチュチュの形状が正面から見えるよう
両手両足を伸ばしたままで前屈して決めポーズ。毎回鳥肌物の勢いと揃い方でした。
女王が権力を失う判決後はドミノのように曲線状に並び、トランプたちも両脇に立っていたトランプタワーも大崩壊。
米国の経済を皮肉っているのではないのだが、頑丈に見えても中身が薄ければ瞬く間に壊れ
残るのは虚しさがだけでしょう。

そして忘れてはならないのが名前も出ずお顔もほぼ分からぬ状態ながら支えてくださっていた縁の下の力持ちな役柄。
例えばコーカスレースに登場する生き物たちが涙の湖を泳ぐ場面は波と同色のスピードスケート選手のような
全身スーツ着用のダンサーたちが持ち上げながら袖から袖へと移動。
気持ち良く泳いでいるように見せつつ波の揺らめきと同化してのリフト移動は
どれだけ身体に負担がかかっていたことか。
チェシャ猫や穴に落っこちるアリス人形の操作、欽ちゃんの仮装大賞も仰天であろう
顔を真緑に塗って木に入り、後ろが見えない難しい条件であっても
あたかも群舞を踊っているかのように間隔を変えずスルスルと移動をこなしていたのもダンサーだったとのこと。
木はただ移動するだけでなく時にはクロケー場の壁となりアリスとジャックのようやくの再会演出にも貢献。
スリル満点な音楽に乗せて木の間をすり抜けながらジャックがアリスに近寄り、
ふと無防備な表情となっての喜び一杯な再会は毎回胸を撫で下ろす一幕でした。
例え顔も名前も出ずとも役に徹底して入り込みながら舞台演出を盛り上げ支えていた
全てのダンサーに拍手を送りたい思いです。

それから今も脳内を旋回しているジョビー・タルボットの魔術呪術のような音楽の魅力も尽きず。
木琴の速いキンコンカンコンで始まる序曲はこれから始まる不思議の国への冒険に対する想像力を掻き立たせ
幕開けのじわじわと泉が沸き出るような旋律も忘れられません。
めくるめく変化でそれぞれの場面の強烈なキャラクターや情景を描き出していました。
料理女の場面ではひっくり返した本物のフライパンや鍋がピットに入り、奏者が叩いていたそうです。

2013年夏に英国ロイヤル・バレエ団の来日公演で鑑賞して何とも楽しい作品であると感激し
新国立劇場バレエ団による上演決定の告知がなされ通い詰めている新国立が上演するとのニュースに
嬉しさが込み上げたのが4年後の夏。そしてその年の冬に主役が決定して楽しみが50倍に膨れ上がり
首を長くして待ち侘び迎えた初日は客席も舞台上も心臓の鼓動が大きく鳴りっぱなしであろう期待と緊張で包まれ
構想から4年の歳月をかけて上演に漕ぎ着けて無事終演した際の安堵と
レパートリー入りした幸せに浸らずにいられませんでした。
当初不安視していたグロテスクで風刺の効いた表現や個性強烈なキャラクターたちの造形も
普段はクラシックを踊っているダンサーたちの奥底に眠っていた思わぬ魅力発見に繋がり
瞬きが惜しく目があと6個は欲しいと願い続けた公演でした。

ところでロイヤルの来日公演でもシネマでも、カラフルで心躍る作品とは思ったものの
音楽もそれぞれの場面もさほど印象には残らず。
しかし新国立バレエで観ると音楽にしてもパ・ド・ドゥ振付にしても初日を1回鑑賞しただけで脳内から離れず。
好きなバレエ団、ダンサーで鑑賞すると印象の刻まれ方がこうも違ってくるのかと痛感です。

※また思い出したことがあれば綴って参ります。



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入口ではアリスがお出迎え、不思議の国へようこそ。



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シーズンプログラム1500円で販売。主にコール・ドを踊っていらっしゃるダンサーたちを含む
全契約ダンサーへのインタビューを掲載していて、購入をおすすめいたします。

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リハーサル映像を流している横に白うさぎと女王様。

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上のフロアにもパネルあり。以下、いくつか勝手に台詞を当てて参ります。
ジャックが案内、2階中央席はこっちだ!!

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3月ではなく3階ウサギ。時計を掲げ、あかん開演に遅れてしもうわ!!

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4階のエレベーターを降りると女王様。上演中のお喋り、背もたれに背中をつけない鑑賞はお仕置き!!

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ダイヤのジャックの場所にてハートの形をしたヴィクトリアケーキ。
偶然一緒のテーブルにいらした方も興味津々にケーキを眺めてくださいました。
(ちなみに新国トランプのハートのジャックは福岡さんのバジルです)

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確か名称はスクエアケーキだったか。このたびトランプで最も気に入ったマークと数字です。
トランプ、早速購入いたしましたので年末年始にでもババ抜きでもして遊びたいと思います。
セカンドキャスト日のタルトアダージオや裁判場面、ハートの2番ばかり追っておりました。(困り顔や怯え顔も素敵)
他の家来たちの感想を聞かれても回答が難しい旨、ご了承ください。

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鑑賞の手引きに図書館で借りたアリス関連書籍。アリスのバレエ化についても触れています。

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テネシー州のお酒ですが、ジャック・ダニエルのシングルロックで乾杯。
着物行事でお世話になった方とこれまた魅力溢れる人生の先輩と3人で中間打ち上げといったところ。

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白ウサギに案内されて発見した新宿西口の穴に落っこちて行くと(そんなわけはないのだが)
魔法の国のアリス。気になっていたため訪問してみた。
ややメ◯ドカフェに通じる接客ではあったが親切丁寧な案内で、アリスになった気分で滞在できます。(ちょいと恥ずかしいが笑)せっかくですのでハートのテーブルにて
ハートのクイーンとハートのジャックカクテルに帽子屋のケーキ。

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昼夜公演の間は極力動かず体力温存に務めるため、劇場内のマエストロへ。
このブログを通して知り合いお世話になっている人生の先輩とアリス成功を白ワインで乾杯。
スープにはきのこがたっぷり入っていてキャタピラーの場面を思い出させます。

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あさりのクリームパスタ、白ワインが進みます。
福岡さんのマッドハッターなどこの日以前のキャストについてもあれこれ語り合いました。

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我が千穐楽は10日夜公演。連日カメラに収めていたキャスト表横のパネルのジャックとのお別れは寂し。

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少しアリスから離れますが、エレガントで美しい木村さんと
目元涼しく髪型含め古風で凛とした雰囲気に恍惚と見入ってしまう渡邊さんが
オペラシティの冊子ADAGIO最新号の表紙を飾っていらっしゃり、お2人のインタビューも掲載されています。
記念にクリスマスツリーの前で撮影、この後はワイングラスでも傾けながらゆっくり読みたかったが
インフルエンザの予防接種後であったため断念。

アリスを含む11月前半、約2週間で新国立アリス6回、京都バレエ、シュツットガルト白鳥の湖、
ノートルダム、と4ヶ所で計9回鑑賞。今月はあと1回鑑賞予定があり、来月はくるみ及び大阪祭り。
未だ注射針を刺した腕の腫れが消えないのは威力のせいなのか、予防接種の効果を信じつつ
体調管理に気を配りながら年内残り約1ヶ月を過ごしたいと思っております。




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