10月21日(日)、江戸川区総合文化センターにて佐藤朱実バレエスクール10周年記念発表会
『くるみ割り人形』を観て参りました。
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『オープニング』、『レ・シルフィード』、そして英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団で活躍されていた
山本康介さんによる振付演出『くるみ割り人形』全2幕の構成。
佐藤先生の指導も行き渡っているのでしょう、全体に上品な香りが漂う舞台でした。
ゲストは新国立劇場バレエ団の小野絢子さん、福岡雄大さん、福田圭吾さん、
メザミバレエスタジオの高比良洋さん、バレエシャンブルウエストの土方一生さん、
スターダンサーズバレエ団の林田翔平さん、と10周年に相応しい豪華な方々が集結です。
※プログラム未購入のため、役名など誤表記がございましたら申し訳ございません。
オープニングは幼児から大人まで生徒さん総登場。
子供は白、大人は薄目の青系緑の膝丈のふんわりとしたチュチュを着用し
『ワルプルギスの夜』で用いられている曲が次々と流れる中で披露されました。
生徒さんがほぼ全員が登場すると教室のカラーが大体分かるのですが
とにかく上品で清楚な雰囲気の生徒さんが多し。先生の方針なのか無茶なテクニックをやらせず
あくまで基本を大切に且つ優雅に踊るよう日々細かく指導なさっていると窺えました。
トゥシューズに関しても痛々しい踊り方の生徒さんが見当たらず。
1人1人の脚の状態、身体の出来上がり方をしっかり見てから許可を出していらっしゃるのでしょう。
『ヌビア奴隷の踊り』の曲で小学生ぐらいの生徒さんたちが踊るのは初めて観ましたが
きちんと整列して丁寧にきちんと踊ろうとする心がけや真面目そうな様子が緊張感のある曲調によく合っていました。
『レ・シルフィード』は大人クラスの方々による出演。呼吸の合わせ方や腕の使い方がいたく柔らかで
加えて揃い方も綺麗で集中力も切れず。詩人が不在であっても
森の妖精たちが舞うしっとりとした世界観を届けてくださいました。
『くるみ割り人形』はスタンダードな流れでありつつ生徒さんとゲストそれぞれの特性を生かした演出で
首を傾げ眉をひそめる箇所も無く、場面と場面の繋ぎや登場人物同士のやりとりを丁寧に描写し衣装のセンスも良し。
クララ役の生徒さんはかなりしっかり踊れるだけでなく表現表情も豊かで
観ていて清々しい気持ちになるヒロインでした。
王子との出会いで心奪われていく様子も踊りと表情両方から伝わり
2幕では最初から最後までほぼ全編舞台に登場した状態ながら一切気を抜くところは無く
各国の踊りに加わったりキャンディーさん(恐らく)を導いてあげたりと
切り貼りな印象になりがちな2幕を盛り立てて舞台を引っ張っていました。
王子の福岡さんと踊っていてもゲストと生徒の壁を感じさせず
クララがみるみると王子に恋してときめきを募らせている感情が舞台から遠い席にまで響いてきたのは見事です。
ドロッセルマイヤーは福田圭吾さん。鬘装着や白塗りはせず福田さんの素顔と持ち前のテクニックを生かした
若々しくそしてジャンプも得意な踊れるドロッセルさんで、ちょっぴり怪しさを匂わせつつ
クララをお菓子の国へ導いていました。吸引力が非常に強く、中でも
ドロッセルさんの操りを軸にクララの家の客間が戦場と化していく展開では
磁力の如き強さで引っ張られ見入った次第です。
マント捌きもびしっと決まっていて、細かいネタ多しな手品の数々も難なく披露し
最後クララが夢から覚める場面では王子の去り際をロマンティックに手助け。味のあるドロッセルさんでした。
福岡雄大さんの王子はキレ味抜群で毎週のように舞台出演を抱えながらも手抜きの様子もなくエンジン全開。
(前週には札幌文化芸術劇場のドン・キホーテ全幕に主演したばかり。ご覧になった方曰く大成功だったとのこと)
山本さんの振付の良さもあるとは思いますが、倒れ込んだ状態から起き上がり
無事であることを自身の肩や腕に触れながら確認したのちにクララの存在に気づき
互いに惹かれ合う過程をじっくり描いているため、感情移入しやすい流れであると思えました。
金平糖の小野さんはピンク色のきらきらとしたチュチュで2幕冒頭に登場。
舞台に現れた瞬間照明が何機も増加したかと思えるほどのオーラを発散し
グラン・パ・ド・ドゥでの甘い香りに包まれ且つ女王らしい厳かな雰囲気もあり
緻密で細やか、曇り1つない滑らかな踊りにも惚れ惚れです。
小野さんに対し憧れの眼差しを向ける生徒さんたちから優しくも凛とした背中で引っ張る姿から
あたたかな空気が醸し出されていました。
山本さんの演出は奇を衒わずオーソドックスな中にゲストや生徒さんの特性を生かせるよう工夫が盛り込まれた
センスの良さが随所で感じられました。
ねずみたちは小さい年齢の生徒さんたちによる構成ですが、特別難しいテクニックを駆使していなくても
集団でそぞろ歩き踊りながらの奇襲は例え小さなねずみさんでも怖い怖い。
実際のねずみに比べれば当然ながらクララの方が上背もあるわけですが、
小さくも集団になると怖さ倍増なねずみたちをソファーの上から怯えた状態で眺めている
ホフマンの原作本で目にする挿絵の1枚を彷彿させる光景でした。
小さな魚でも大勢集まると巨大なマグロをも圧倒する力を発揮する『スイミー』の話も懐かしく思い出します。
雪は人数はそれほど多くはないにも関わらず随分と見映えする振付で、
フォーメーションの変化や雪の女王が駆け抜けていく際のポーズなど
大きく見えるよう趣向を凝らしていたと感じさせました。
それから登場人物同士、場面と場面の繋がりが見えてくる点も魅力。
先述の通りクララと王子の出会いはじっくり時間をかけて驚きや喜びといった感情の通わせが描かれ
派手リフトが少ないからこそ、より細やかで丹念な踊りと表現による魅了が可能のなったと想像いたします。
2幕ではクララが踊りに加わるほか、葦笛の後には直前まで用いていた棒キャンディーを
今度は指揮棒代わりにして小さなキャンディーさんたち?をまとめ上げる団長っぷりも微笑ましく映った展開です。
ドロッセルマイヤーが終始傍に付き添っているため、心細さも感じさせません。
どの場面においてもぶつ切りな印象が皆無で、流れるような展開にすっと引き込まれていく瞬く間の全幕舞台でした。
最後、クララが夢から覚める場面がまたロマンチックで
クララは王子に見守られる中でゆっくりと倒れ込み、王子がキスをした自身の手でそっとクララに触れ
ドロッセルマイヤーの操りによって後方に引っ張られながら
マント中にさっと入り込んで消えていき、クララがお目覚め。
福岡さんの王子には特別ときめきはしないのだが(失礼)、ここまでうっとりしてしまう目覚め振付は
これまで何度観てきたか分からぬくるみの中でも初めてかもしれません。
ヘアスタイルで良かったのは林田さんの不思議なカーリングヘアーではなく(目立ってはいたが笑)
1幕の男の子役の生徒さんたち。多くのバレエ教室では今もなお女子の人数は男子の倍以上で、
『くるみ割り人形』での男の子役を女子生徒さんが務めることは珍しくはありません。
しかし、時々ヘンテコな派手鬘を使用している舞台を目にする機会もあり、
年頃の生徒さんの心境を考えると恥ずかしくてたまらないだろうと察する回数も度々ございます。
しかし山本さん版くるみでは鬘は使用せず、軽くお団子のようにまとめてシックなリボンを付けて完了。
無理矢理な男装をしなくても、お顔も踊りもきりっとしていて
お洒落な上着とズボンの衣装のため素敵な男の子に見えたのでした。
主宰の佐藤さんの爽やかな品ある美しい容姿、抜群のスタイルは牧阿佐美バレヱ団時代と全く変わらず。
舞台を観る限り優雅な立ち振る舞い、踊り方を事細かく指導なさっていると窺え
その成果は全幕の舞台にも表れていました。一足早いクリスマスを過ごせた気分でおります。
ゲストと生徒さんも結束した、山本さんによる工夫が凝らされた全幕くるみを鑑賞でき大変幸せな時間でした。
会場近くの川。最寄駅の新小岩駅からは徒歩15分。大通りから一歩入った、のどかで静かな場所でした。
帰りはインドと周辺地域の料理店クイーンガーデンへ。地域柄インド料理店があちこちにあります。
英語の店名は珍しく、(大概◯◯マハールやガンジスといった名称が多い気がいたします)
『不思議の国のアリス』を彷彿。
まずはネパールアイスビールで乾杯。地元のお客さんで賑わっている、居心地の良いお店でした。
テーブルマットに蝶々が描かれていますが、葦笛はチュチュでしたので安心。
大ぶりな海老とほうれん草たっぷりなカレー。ナンが大きく入りきりませんが美味しく完食。
すぐ近くに貼られていた、インドの方々が両手を合わせたポーズのメニューを見て再び思うのは
アリスのキャタピラー役の日程発表は当日か!?と思っていたら本日発表されました。