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Channel: アンデオール バレエ日和
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危険と隣り合わせのロマンス マシュー・ボーン版『シンデレラ』10月14日(日)

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10月14日(日)、渋谷の東急シアターオーブにて
ニューアドベンチャーズのマシュー・ボーン版『シンデレラ』を観て参りました。
舞台を1940年第二次世界大戦時代のロンドンに移していながらもバレエの骨格はそのままに
斬新ながらもスリリングでロマンティックな演出に目から鱗の連続でした。
https://mbcinderella.com/


シンデレラ:アシュリー・ショー
パイロット:アンドリュー・モナガン
天使:リアム・ムーア
継母:マドレーヌ・ブレナン

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主要キャスト

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管理人、英語が苦手なためご自身で解読願います。毎度無責任で申し訳ございません。

アシュリー・ショーの1幕序盤のシンデレラはおとなしく野暮ったい、果たしてドレスアップして
綺麗になるのかも不安になるほどの地味な少女。
カーディガン、スカートともグレー色を着用し、(シンデレラだから灰色?)
ひたすらコーヒーカップを運んだり車椅子の父親の世話をしたり
やや挙動不審な行動もあってひときわ惨めさを感じさせました。
ところが継母のいない隙に上着を着てソファーに腰掛け、ゴージャス気分を束の間に満喫している姿は
変身前とはいえ、スターの片鱗を覗かせる一幕。
それまでがいたく地味で鬱々としていたため、はっとさせられる大胆さでした。
妄想ダンスでは洋服を掛けておく車輪付きトルソーを憧れの人と見立て自在に動かしながら表現。
車輪がある分滑らかで疾走感あり、シンデレラの昂ぶる感情が
そのまま乗っかっているような印象を刷り込んでいきます。
一度吹っ切れると怖い物無しなのか、舞踏会へ行く道中スクーターに乗って駆けていく際には
招待状を握った手を力強く観客に振り猛アピール。2幕での変身ぶりに期待を膨らませる展開です。

2幕の舞台は宮殿ではなく実在したカフェ・ド・パリ。光り輝く電飾にも負けぬ、ポスターで何度も目にした
煌びやかなドレスを纏って髪をアップにまとめた姿で階段を降りてくる場面は
全盛期のマリリン・モンローを思い出させ、何ともゴージャス。
ただモンローではありませんから床下より吹いてくる風によってスカートが舞い上がるわけでなく
あくまで品良く階段を降り、初めて足を踏み入れる華やかな空間に驚きを隠せない様子が
またシンデレラの純朴な内面を物語っていました。

アンドリュー・モナガンのパイロットは制服を着用して他のパイロットと並ぶと皆似たり寄ったりな印象で(失礼)
従来の『シンデレラ』からすると世の女性たちから羨望の眼差しを向けられる男性とは違った趣きがありましたが
完全無欠な王子ではないため、致し方ないのでしょう。
シンデレラが恋する人物が雲の上の王子様ではなくパイロットつまりは労働者であるのは
クラシックでの『シンデレラ』と最たる相違点かもしれません。
怪我を負っての登場から生真面目で朴訥とした要素も持ち合わせていた印象で
2幕の登場時も煌めくオーラを放っていなかったものの、
あくまで容姿に恵まれたパイロットの1人が清潔感ある装いで訪れたと解釈すれば合点です。

1幕でシンデレラの家を負傷した状態で訪れたときは互いにすぐさま恋に落ちたのか分かりづらかったのですが
カフェでの互いに虜となって浮遊するようなパ・ド・ドゥがそれはそれは夢見心地気分。
シンデレラの足元は銀色に輝くハイヒールつまりはよりガラスの靴に近い形でありトゥシューズではなくても
クラシックの技巧を上手く取り混ぜ、あくまでバレエを見ている気分を持続させる振付にも驚きを覚えました。

シンデレラを導くのは仙女ではなく天使。光沢のある白いスーツで髪も白く、
(決して某ファストフードの店頭に立っている老紳士ではありません)
突然暖炉の脇から登場して飛び回る姿はシンデレラにとってひっくり返るような衝撃であったでしょう。
星の精や四季の精も登場しない代わりに、両腕を水平にして飛び交う飛行機(恐らく)のコール・ドや
パイロットたちが懐中電灯を顔に当てて光の道なりを描き出していく工夫もユニーク。
新国立劇場に通い詰めているとアシュトン版の星の精や四季の精の印象が刷り込まれておりますが
星の精たちのパキパキと鋭角な振付と飛行機の両腕水平ポーズはどこか重なる部分もあり
比較も面白く思えたのでした。

マシュー・ボーン作品は4年前に『白鳥の湖』を同じくシアターオーブで鑑賞しておりますが
好みでなかったのか実のところ魅せられることがないまま終演。
1幕がゴテゴテとした色彩で、あくまで個人の趣味ではあるものの賑やか過ぎる色合いに目が疲れてしまったのです。
今回は煌びやかなブルーを基調としたポスターのデザインと戦争時代に設定している点に惹かれて足を運びましたが
可能ならもう1回観たいと唸らせ、期待を遥かに超える面白さでした。

まず効果的であったのは映像導入。映像やプロジェクションマッピングは下手すると無機質な印象を与えかねず
特にクラシック作品やお伽話を題材にした作品では要注意と感じる手法ながら
当時の時代背景がすぐさま分かるよう度々発令される空襲警報の放送や
空襲から逃れるように地下へと潜る市民たちの様子が映し出され、舞台の1940年のロンドンへとタイムスリップ。
記憶の限り、映像導入で成功していると思えるのはケネス・マクミラン振付で
帝政ロシア最後の皇帝一族を描いた『アナスタシア』とこのボーン版『シンデレラ』のみです。

またプロコフィエフの曲がほぼ同時代に作られた経緯もあり、全く違和感無し。
不穏な時代であってもちょっとした隙間から夢見る心を見出していたであろう曲調が
戦争真っ只中を駆け抜ける恋愛にぴたりと嵌っていました。
加えて、要所要所で轟く爆撃音も音楽の盛り上がりや決めの箇所に難なく溶け合い
効果音が煩過ぎる不満のない展開にも驚愕です。

それから、戦争を美化せずけれどもお伽話の要素を押さえた演出も魅力の1つ。
爆撃音は非常に大きく、中でもシンデレラとパイロットを引き裂く爆撃は会場が揺れ動きそうなほどで
ついさっきまでカフェで踊っていた人々が瞬く間に次々と倒れて建物も炎に包まれ
遺体や負傷者が運び出されて行く光景は戦争がいかに愚かで残酷な行為であるかを
舞台一杯に示している場面といえます。
一方でカフェでの舞踏会は非日常なる煌びやかさ。パ・ド・ドゥはいつの間にか寝室に移動し
シンデレラもパイロットも簡素な格好で踊られる演出ですが、
2人だけの空間で熱を帯びていき戦争と隣り合わせな危険な状況の中で
幸福と興奮が最高潮に達する喜びとスリル感にこちらの体温までもが上昇してしまいそうでした。

病院での再会までの道のりも細やかに描かれ、パイロットは暴力沙汰の騒動に巻き込まれたりと
シンデレラ探しは苦難の連続。ようやく辿り着いた病院では
診察室で見かける車輪付きの仕切りカーテンを何人もの医者が走らせてなかなか会わせず
時間をかけてようやく病室で再会を果たす流れで、もどかしかった分
再会時の歓喜やベッドの引き出しにしまっていたガラスの靴の存在に一層安堵感を得たのでした。

観客のツボを押さえていると思わせる祝祭感ある締め括りも後味良く、
シンデレラとパイロットが列車に乗っての旅立ちでもめでたしめでたしではあれど何処か慎まし過ぎる印象で
このまま終わってしまうのかと思いきや、一息ついたところでグラン・ワルツ開始。
和解した継母や弟たち、そしてカフェの客や舞踏会と同様に
着飾ったシンデレラとパイロットが総登場し大団円の中で幕が下りました。
戦争の残虐性を伝えつつバレエ『シンデレラ』に親しんでいる観客も入り込みやすい
コール・ドやパ・ド・ドゥもあり、お伽話の要素もしっかり備わっていて
最後はめでたく幸せな心持ちで劇場を後にできる演出。再演時も足を運びたい作品です。


※11月より順次映画館で上映されます。ご興味を少しでもお持ちになりましたらどうぞ劇場にてご覧ください。
ボリショイやロイヤルシネマよりも安価料金です。私も行って今度は細部までしっかり鑑賞したいものだが
10月末以降はバレエ映画も目白押し。
https://matthewbournecinema.com/


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爆撃音、多し。毎日が恐怖と不安に駆られていたと当時を思うと平和の尊さを再度痛感いたします。

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ガラスの靴。一度は履いてみたいがバリバリと音を立てて割れるのは目に見えております。

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カーテンコールのこのときは写真撮影が許可されました。ただし上階席からではこの写りが限界。
作品は同じであれど、今夏の新国立こどもバレエのような奇跡(いや、執念か)の鮮明写真はなかなか撮影できません。

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帰りは82宮益坂店との共同企画で、当日のチケット提示で1杯サービスされる
シンデレラカクテルで乾杯。大人のシンデレラから発想を得たのか甘酸っぱく、ほろ苦さもある味でした。
ボーン版シンデレラの舞台に違和感なく溶け込みそうな内装です。





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