渋谷駅が1年で最も賑わいを見せる10月31日(月)、渋谷文化総合センター大和田さくらホールにて開催された
後藤早知子さんの舞踊生活60周年記念公演『スライス・オブ・ライフ』を観て参りました。
後藤さんの振付作品鑑賞は2006年に青山劇場で開催された『ヘレンー心の光ー』『Love Angel』以来10年ぶりです。
http://dancerssupport.com/video/932/
酒井はなさんを主軸に森田健太郎さん、山本隆之さん、宮河愛一郎さん、高比良洋さん、
4人の豪華なる男性ダンサーが絡んで後藤さんの舞踊人生を辿り
パズルのように1ピース1ピースを埋め込んでいくかの如く丹念に作り上げられた舞台。
春を20代(高比良さん)、夏を30代(宮河さん)、秋を40代(山本さん)、夕映えを50代(森田さん)として描き、
終始日本の四季らしい繊細な情緒が会場を包みました。
酒井さんは組むダンサーが変わる毎に様々な反応を起こしながら柔らかに表現。
自在に肢体を駆使し音楽を奏でるかの如く丁寧に紡いでいく踊りは観る者の心を満たし幸福感を与えてくれます。
衣裳を何度も替えて登場され、どれも元来の容姿が引き立つシンプルなデザイン。
中でも渋めの淡い紫色の衣裳がお似合いで、古いものを大事になさり和風のものを好むと仰っていた
インタビューが思い起こされ妙に納得です。
白眉は新国立劇場の黄金ペア復活となった酒井さんと山本さんのパ・ド・ドゥ。
可愛らしい酒井さんと優しく受け止める山本さん、穏やかな歌曲に包まれながらどこまでもしっとりと美しく、
交わされる感情の深さに酔い痴れたのは言うまでもありません。
後藤さんの40代をモチーフにしていながらも古典から創作まで数々の名舞台で組まれてきた
酒井さんと山本さんの再会、つまりはパートナーシップ復活を静かに喜び確かめ合うさまにも見て取れ、
いつでも観続けていたいお2人でした。
前回共演されたのは現在展覧会が開催中ですが2013年の日本バレエ協会での江藤勝己さん振付
『マリー・アントワネット』。マリーが酒井さん、フェルセンが山本さんでした。
歴史上究極のラブロマンスにこのお2人を配した江藤さんにまず拍手。
フランスに嫁いだ孤独なマリーが次第にフェルセンに惹かれ
やがて処刑台へと向かう過程が細やかに描かれた1幕物で大変面白い演出でしたが
複数の幕構成にして『マノン』や『ロメオとジュリエット』のような壮大な演出でも観たいと願ったものです。
森田さんは体格は随分と立派になられましたが(ファンの方、すみません)
酒井さんが身を委ねる姿がとても気持ち良さそうで
(決してトトロとサツキちゃん或いはメイちゃん状態ではありません。念のため)厚い信頼を寄せているのが明らか。
児玉初穂さんのインタビュー著書『舞台の謎』で山本さんと森田さん、
タイプは異なれど安心して踊れる大好きなパートナーと語っていらしたことを思い出しました。
酒井さんと山本さんはフォンティーン&ヌレエフやマカロワ&バリシニコフと同様
バレエ史に残るペアであろうとこの度も心底感じた次第、
これからも極上の共演舞台鑑賞の機会を祈らずにいられません。
宮河さんが音楽なしで森田さんと山本さんをコンテンポラリーの指導をする場面には一驚。
短いものの各々レッスンウェアで台詞もあり、客席に響き渡るのはダンサーたちの声のみ。
まさか地声が響くとは想定外、良い意味での衝撃で思わず笑ってしまいました。
先に山本さんがリタイアし、振付についていけず腰痛と闘いながら粘ったものの
森田さんもリタイア、といった流れでしたがただ長々とはせずさくっと終了。
他にも所々に映像や語りも入っていましたがやり過ぎない程度に抑え好印象でした。
音楽はリヒャルト・シュトラウスの『四つの最後の歌』を中心に
ラフマニノフの『ヴォカリーズ』やマイケル・ナイマンの『Nose -List Songs』など。
後藤さんの軌跡を辿りつつ酒井さんと4人ダンサーの絡みによく合うしんみりと胸に響く選曲でした。
カーテンコールには後藤さんも登場。からっと明るく、とても若々しい容姿で
還暦を過ぎていらっしゃるとは到底思えず。まだまだ振付のエネルギーに溢れている印象でした。
大和田さくらホールは比較的新しい会場で見易くシックなデザインの空間、そして席も座り心地良し。
前方席でしたが、舞台との距離がかなり近く昨年訪れた福島県のいわきアリオスに匹敵する至近距離。
後方席に座っていた知人が後日、前方席の私を含める数名がコンテ指導場面で失神していなかったか
心配であったと話をされたほどです。
尚今回は演出の都合上休憩はなし。しかし例え3時間超であっても休憩がない
ジャニーズなど現代の邦楽コンサートと異なりバレエの鑑賞の大きな楽しみの1つは幕間の会話であります。
実際に4年前、母が年末の動向が気になるSMAPのコンサートへ行き本当になかったそうですが
(興奮しているため年配者の客でも案外体力は持つらしい)バレエで休憩がない公演はかなり珍しいでしょう。
振り返れば2年前に鑑賞した東京バレエ団公演ベジャール振付の『第九交響曲』以来です。
しかし代わりに終演後、ロビーや出入り口付近の広い場所で皆さん歓談。
感想を語り合ったり、久々の再会で歓喜に沸いたり幸せに溢れる光景が広がっていました。
私も2月にお世話になった大学の後輩や酒井さんのバレエのクラスの皆様と再会。
突然やって来た者を受け入れてくださった生徒さんたちの優しさも忘れられません。
他にもバレエ教養講座でお会いした方や大阪の舞台に出演されていた方とも再会を果たせました。
バレエで繋がるご縁は人生の財産であると益々思う今日この頃です。
帰りは新国立常連組でホールの下に入っているイタリアンレストランにて
まずはスパークリングワインで乾杯。
料理はかなりボリュームがあり、味も良し。特にウニのクリームパスタはおすすめです。
ホール周辺は全国で放送されている10月31日の渋谷とは思えぬ閑静な地域、ゆったり居心地の良い空間でした。
この手の写真を載せるとしばしば誤解されますが、
瓶は写真用に撮らせていただいただけで1人で1本飲み干したわけではありません。
帰り道、離れた所からはまだまだ続く仮装祭りの賑わいが聞こえ、
駅のエスカレーターから階下を見下ろすと見覚えのあるキャラクターたち。
考えが古いのかここまで騒がなくてもと思いますが経済効果はあるようですからまあいいかと諦めております。
かぼちゃといえばシンデレラ、ほうとう、冬至、映画『魔女の宅急便』でキキが配達するパイ、
これらが真っ先に浮かぶ昭和生まれの私です。