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Channel: アンデオール バレエ日和
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演目も劇場も波乱な幕開け 新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』 10月29日(土)〜11月3日(木祝)

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ジュリエット:小野絢子(29日) 米沢唯(30日、3日)

ロメオ:福岡雄大(29日) ワディム・ムンタギロフ(30日、3日)

マキューシオ:福田圭吾(29日、30日) 木下嘉人(3日)

ティボルト:菅野英男(29日) 中家正博(30日、3日)

ベンヴォーリオ:奥村康祐

パリス:渡邊峻郁

キャピュレット卿:貝川鐵夫

キャピュレット夫人:本島美和

大公:内藤博

ロザライン:堀口純(29日) 木村優里(30日、3日)

乳母:丸尾孝子(29日) 楠元郁子(30日、3日)

ロレンス神父:輪島拓也

モンタギュー卿:古川和則

モンタギュー夫人:寺井七海

3人の娼婦:
長田佳世 奥田花純 益田裕子(29日) 寺田亜沙子 堀口純 中田実里(30日、3日)

ジュリエットの友人:
池田理沙子 木村優里 柴山紗帆 細田千晶 川口藍 加藤朋子(29日)
池田理沙子 柴山紗帆 細田千晶 飯野萌子 加藤朋子 原田舞子(30日、3日)

マンドリン:
原健太(ソリスト) 清水裕三郎 林田翔平 宝満直也 宇賀大将 八木進(29日)
小柴富久修(ソリスト) 小口邦明 清水裕三郎 福田紘也 宇賀大将 佐野和輝(30日)
福田圭吾(ソリスト) 小口邦明 清水裕三郎 福田紘也 宇賀大将 佐野和輝(3日)


だいぶ遅くなりましたが。10月29日(土)から11月3日(木)まで
新国立劇場バレエ団シーズン開幕公演ケネス・マクミラン版『ロメオとジュリエット』を計3回観て参りました。
マクミランの人気演目で待望の再演且つ謎な日程で団体も入り連日完売、色々な意味で全日程客席は盛況でした。
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/romeo_and_juliet/

小野さんのジュリエットは前回2011年に引き続き2度目ということもあり
滑らかさが更に増し、ロメオそして音楽に身をとことん委ねどこを切り取っても危うい箇所がなく自然。
意思の強さが光り、ベッドに腰掛け伝統に逆らいロメオへの再会を決意する場面は凛とした輝きに満ちていました。

米沢さんは初挑戦。最初やや硬さがあったとは思うものの
可愛らしく心は幼くても自身が気づかぬ間に色っぽさが匂い立っていくその対比がまたいじらしい印象を残しました。
出会いから溢れる愛を抑えらずロメオに恋に恋をしていた小野さんに対し
米沢さんはバルコニーのパ・ド・ドゥで一気に感情が広がりを見せ、こちらまでが快感。
新国立看板のお2人が全幕を支え導き、並々ならぬ技術、演劇性両方が不可欠であると再確認いたしました。
まだまだ2人がトップにいる時代は続くと実感です。

福岡さんは表現が熱く細かくロメオの浮き沈みが分かり易く鮮やか。
出演の3回中2回が学校団体日でしたが(後ほど書きますがおかしいのではこの日程)
物語を読んだことがない生徒さんにも流れがしっかり伝わったに違いありません。
ジュリエットからの手紙を読む時はじっくり時間をかけ、読み進めて行くに従って笑みが零れて
便箋の隅々まで一字一句心に焼き付けているのは明らか。
ティボルトとの決闘では星飛雄馬の如く目に炎が宿っているのではと思うほど狂気と憎悪の固まりのまま勢いで大突進。
ドラマが盛り上がったのは言うまでもありません。感情の起伏が手に取るように伝わりました。
ジュリエットに対しては最初は恋なのか何なのか戸惑いぽわーっとした印象でしたがバルコニーで一気に爆発。
難易度の高いリフトはどれも見事なまでにスムーズで
ジュリエットに熱き思いを打ち明け強い抱擁で恋の喜びを表していました。

ムンタさんは見るからにお育ちの良さそうなお坊ちゃん。
梅酒の広告に登場しそうなさらり爽やかな身のこなしでした。(対する福岡さん重口赤ワインか)
淡白さが優ったのか決闘は迫力に物足りなさが否めずいささか避難訓練のようにも感じてしまいましたが
全編通して踊り慣れていて、米沢さんがいたく気持ち良さそうに踊る姿から相性の良さを感じた次第。
(ムンタさんですが、今シーズンもこう呼ばせていただきます。他にもムンちゃん、ムン太郎など
劇場では様々な呼び名が飛び交い教育テレビのキャラクター状態。
まあバレエ団ファンに受け入れられている証でしょう)

福田さんのマキューシオは賢く機転が効きそうな頭も身体もキレキレな青年。
木下さんは褒め言葉として暑苦し。最近では貴重なタイプで
ロメオと、マキューシオ、ベンヴォーリオが並ぶ場面では1人だけ異質な雰囲気。
だからこそ仲間2人の爽やかさが際立ちました。
『ラ・シルフィード』のグアーンのときと同様、福田さん木下さんは同じ役の
ダブルキャストに選ばれる機会が多そうでこれからも見比べが楽しみです。

仲間トリオの踊りにおける、決闘遊びのやりとりは地域性なのか
予想通り大阪トリオの福岡さん福田さん奥村さんが圧倒していました。
刺されて身体をコントのように仰け反るのは浪速の血所以です。

そしてロメオとジュリエット2人に次ぐ主役級の存在感を示していたのが本島さんのキャピュレット夫人。
『パゴダの王子』皇后エピーヌや『眠れる森の美女』カラボス、『しらゆき姫』お妃、
昨年のスターダンサーズ・バレエ団『火の柱』ヘイガーで見せた
複雑な心理表現や大人の女性役で今回も主役を凌いでしまうと想像しておりましたが期待以上。
怒り狂い嘆いて救いを乞う鬼気迫る表現には身震いがし、
ティボルトの亡骸を抱いた2幕終了後は客席がざわめくほどでした。
キャピュレット家の家主は間違いなく夫人でしょう。

怒り狂いだけでなく、パリスとの結婚をジュリエットに命じる3幕では
最後の最後まで追い詰めていたキャピュレット卿とは異なり
嫌がる愛娘に寄り添う表情を徐々に見せていた点も印象に残りました。
恐らくはキャピュレット夫人もジュリエットと同様、家のしきたりに従って相手を親に決められ
望まぬ結婚を強いられた頃を思い出し、家のためとは言えどもお腹を痛めて産んだ愛娘に
自らが経験した辛い思いをさせたくないと願っていたのかもしれません。

菅野さんのティボルトは少しおっかない先生のようで一見悪人には思えませんがスイッチが入ると止まらず恐ろし。
中家さんはワイルドな美青年といった風貌でキャピュレット夫人と並ぶとお似合いのカップル。
死に際での釣られた大魚のような跳ねっぷりも力強く、緊迫感が舞台を覆いました。

3人の娼婦も2組とも好演。長田さん、奥田さん、益田さんは
頼れる厳しい姐さんと従順で爛漫な妹分たちといったトリオ。
長身組の寺田さん堀口さん中田さんは街を自由に駆け回りながらの争いをも楽しんでいる様子。
2組とも殻を破っての突き抜けた感があり、脚を見せる仕草もセクシーで悩殺。
街の男性たちの喜びと女性たちの怒りどちらも頂点へ達し街はより喧騒に。
娼婦対街の女性たちの賑やかな争いがヴェローナの街に活気を生み出しました。

マンドリンは何度観ても白塗りの顔とポンキッキーズな毛むくじゃら衣裳に度肝を抜かれます。
しかしソリストだけでなく後ろのダンサーたちが楽器を手に身体を思い切り反らせたりと
弾けていて楽しく、全編中唯一の和み系場面を支えていました。
結婚式の余興で踊ってくださったら会場はさぞ沸くでしょう。

交替出演だったジュリエットの友人も美女揃いで
ジュリエットの恋心を繊細にマンドリンと一緒に奏でてあげる優しさが全身から伝わり、6人の揃いも良し。
全員同じ衣裳ですが個性がそれぞれ出ていて、細田さんがお姉さん風で優雅に率いている印象でした。

見せ場の1つとも言えるのが1幕後半、仮面舞踏会で大勢の貴族たちによって踊られる厳粛な宮廷ダンス。
観客も息を呑んで待ってましたと言わんばかりな集中ぶりで舞台に見入っているのが分かります。
重々しい音楽に乗せて容姿端麗な男女が格調高くそぞろ歩きながら魅せ、特に女性たちの腕使いがまことに優雅。
ルネサンス絵画が動き出したかのような美しさでした。
赤と紺のベルベットで統一された衣裳や真珠の豪華な装飾にも惚れ惚れとします。

また舞踏会帰りの人々を映す一連の流れも秀逸。浮気したのか女性に振られながら半泣きで走り寄る男性もいれば
お酒を飲み過ぎて嘔吐寸前、パートナーの女性が懸命に介抱しながら帰途につくカップルには
客席から笑いも聞こえてきました。池田武志さんと小村美沙さんだったと記憶しておりますがお2人とも芝居上手。
小村さんからは「ちょっと、あなた!家まで我慢よ!!」と慌てふためく声が発せられていたかのよう。
まもなく忘年会の季節、飲み過ぎに気をつけるよう呼びかけるポスターに起用したいくらいです。
つい先ほどまで近寄り難いほどの気高い踊りを魅せていた貴族たちの人間味ある一面を覗かせつつ、
マキューシオとティボルトの小競り合いをモンタギュー卿が制止し
威厳あるキャピュレット夫人は両手を広げて小姓たちを母のように迎えて部屋に入り、
そして密かに抜け出していたロメオとジュリエットが再会し愛を誓い合うバルコニーの場面へと突入。
短い音楽の中で様々な人間模様が織り成されてドラマが進んでいき、
マクミランの構成の巧さそして懐の深さを感じ取るひと幕です。

街の雑踏においてもバラバラで掃除や会話に勤しんでいるかと思いきや
何時の間にか隊列が組まれて整然且つ生き生きとした群舞が繰り広げられ
そうかと思えば娼婦たちが斜めから斬り込んでいくなど
街に息づく市民の生活をリアルに描きながらも群舞の見せ場も盛り込まれています。
揃ったりぱっと散ったり追うのが楽しくなる工夫が凝らされたフォーメーションです。

プロコフィエフの音楽の力も偉大。好みは分かれるであろうかなり風変わりな曲調で強烈な不協和音があっても
場面の情景、人物の感情の起伏を重厚に、時に繊細に描いていると改めて聴き入りました。
客入りも良かったのですから近いうちの再演を望みます。

さて、ここからは容赦なく斬ります。まずキャスト掲載の貧相ぶり。
今シーズンから公演ごとのプログラムが無料になりほどほどなページ数で表紙はカラー。ここまでは良いでしょう。
ところがどっこい、キャスト欄を開いて驚愕。3人の娼婦やマンドリン、ジュリエットの友人すら載っていないのです。
NBSのようにキャストを刷った表を配布するわけでもなく、
気になるダンサーを発見しても全く分からなかった方も大勢いらっしゃるでしょう。
いつの頃からかコール・ドのダンサーが務める役柄も未掲載になり
ダンサーに対して失礼極まりないのではと思っておりましたがシーズン開幕してまたもやびっくり。
プリンシパルが投入されている娼婦ですら載せないとはどういうことだと首を傾げるばかりでした。
主役のみならず広場のお掃除隊やお百姓さん、物乞い、舞踏会の立ち役、
全ての出演者が舞台作りに貢献しているのです。
プログラムに載せろと言うのではなく、間に合わないのであれば別紙の挟み込みでも構いませんから
全キャストの発表を切望いたします。因みに初日は観客からの要望が非常に多く、大急ぎで終演後発表されましたが
池田理沙子さんの沙の字や宇賀大将さんのローマ字表記が間違っていました、、、。

それから日程。小野さん福岡さん組、米沢さんムンタさん組それぞれ3回ずつでしたが
学校団体が入る平日昼公演2回どちらとも小野さん福岡さん組。
学校団体を入れるのは悪いことではなくむしろ将来の観客育成にも繋がるきっかけにもなります。
マナーに問題ありな学校も時々ありますがそれでもプログラムをじっと読み込んだりと
集中して鑑賞している生徒さんも多くいます。
しかし2回とも同じ主役組、しかもファーストキャストに入れるのは如何なものかと思えてなりません。
今後はよく検討していただきたいと願います。



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今シーズンの上演作品案内と12月公演『シンデレラ』予告、映像は2010年の公演。
寂しいことに、娼婦のリーダー役で大活躍された長田さんのサヨナラ公演は12月19日(月)です。
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/cinderella/

今週金曜日からは3日間、ダンサー自身の振付作品を上演するDance to the Future2016 Autumnが開催。
福田紘也さんの作品が気になって仕方ありません。
http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/151224_007947.html





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