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妄想を掻き立てられる濃密愛憎劇 新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』3月2日(土)〜10日(日)

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新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』を計5回観て参りました。

※短くまとめようと努めて参りましたが長くなってしまいました。
作品の背景から、罰として虎の奇襲に遭わぬよう
バレエでお世話になっている先生がこよなく愛していらっしゃる阪神タイガース応援を誓って
西に向かっての六甲おろし熱唱を日課にするなり対策を練って気を付けて過ごして参ります。
※ひとまずホームページ掲載の主要キャスト以外は後日追記いたします。

※数日前に行われたココログのシステム変更リニューアルに私の理解がついていかず
下書きしていたものがうっかり一覧に反映され
しかしアクセス不可状態になっており、諸々申し訳ございません。

【3/2(土)14:00,9(土)18:00】
ニキヤ:小野絢子

ソロル:福岡雄大

ガムザッティ:米沢 唯

ハイ・ブラーミン(大僧正):菅野英男

黄金の神像:福田圭吾(3/2) 速水渉悟(3/9 18:00)

ラジャー(王侯):貝川鐵夫

つぼの踊り:柴山紗帆

影の第1ヴァリエーション:寺田亜沙子

影の第2ヴァリエーション:池田理沙子

影の第3ヴァリエーション:木村優里


【3/3(日)14:00,10(日)14:00】

ニキヤ:米沢 唯

ソロル:井澤 駿

ガムザッティ:木村優里

ハイ・ブラーミン(大僧正): 貝川鐵夫

黄金の神像:木下嘉人(3/3)奥村康祐(3/10)

ラジャー(王侯):中家正博

つぼの踊り:原田舞子

影の第1ヴァリエーション:五月女遥

影の第2ヴァリエーション:奥田花純

影の第3ヴァリエーション:細田千晶


【3/9(土)13:00】

ニキヤ:柴山紗帆

ソロル:渡邊峻郁

ガムザッティ:渡辺与布

ハイ・ブラーミン(大僧正):菅野英男

黄金の神像:奥村康祐

ラジャー(王侯):貝川鐵夫

つぼの踊り:玉井るい

影の第1ヴァリエーション:寺田亜沙子

影の第2ヴァリエーション:池田理沙子

影の第3ヴァリエーション:木村優里


小野さんのニキヤは登場時の足取りからして堂々たるもので迷いのない性格を表し、意志の強いヒロイン。
ソロルに会えると身体中が火照って蕩けそうに背中を反らしたり、ソロルへの愛は強く熱し。
ガムザッティに斬りかかる際も殺気立つ眼つきにはガムザッティでなくても怯えるしかありません。
内に秘めた気性の荒さを露わにしてああ怖し。

米沢さんは今にも涙が零れそうな無垢で薄幸で悲しみを帯びたニキヤ。
ナイフを手にしても、奉納でも泣き出しそうに訴える姿は胸に突き刺さりました。

驚かされたのは柴山さんで、ここ最近は古典のヒロインで
期待を大きく上回る喜びをもたらしてくださる印象を持っておりますが、今回も同様。
思えば2016年の『シンデレラ』初主演では地味で悲壮感ばかりがまさって舞踏会に行く少女には見えぬなど
散々なことを綴ってしまい申し訳ない感想を並べておりましたが
回数を重ねるうちに主役を張る気概といい、役の色を付けながらも
技術の高さ正確さを誇示せずともさらっと魅せてしまう踊りにこのたびも驚きを覚えました。
薄幸路線かと思いきや登場時こそ抑えた慎ましさを滲ませていたものの
ソロルに会えた途端喜びを全身から表して身を委ねていた姿や
奉納での悲しみを迸らせながらの踊りも脳裏に刻まれております。

3幕影の王国は他の影たちと同じ系統の衣装であっても3人とも主役らしい輝きを発揮。
小野さんは凛として崇高、米沢さんは儚い透明感、柴山さんは折り目正しい静けさ、と
白い衣装に覆われたシンプルで粗が目立ちやすい場面ながら
幽玄さを持ちつつ三者三様の美を描き出していて見事な影ニキヤでした。

福岡さんのソロルはパワー全開で登場の瞬間から見るからに戦士。
初挑戦された2011年公演から観ておりますが、容姿や雰囲気が役にとても合っている印象です。
ただニキヤもガムザッティもおっかない(笑)美女のため板挟みになったときの弱りっぷりは切ない限り。
3幕冒頭ではニキヤを死なせてしまった後悔を絶叫するかのような嘆きを全身で体現され
叫び声が聞こえてきそうな悲痛な思いが伝わりました。
小野さんとのパートナーシップについてはもはや書くまでもありませんが
互いが全身でぶつかり身を任せられる磐石且つドラマが生じる逢瀬、
誰かが糸で引っ張っているかと目を疑いそうになるほど僅かなタイミングに至るまで
息が合う3幕のパ・ド・ドゥといい唸らせるものがあります。

井澤さんは『不思議の国のアリス』ラジャー/イモ虫でも証明されたとおり
ラジャーインドの装飾溢れる衣装が絵になり、身体つきもしっかりしているためか衣装負けしない姿も好印象。
煌めき王子なオーラを消して戦士に見えていた点も驚きでした。
王子貴公子系の役では以前は時折遠慮がちな箇所もありましたが
ニキヤに対するありったけの愛をぶつけて全身の表情も豊か。
ガムザッティとの対面ではニキヤ以外の女性に心惹かれてしまった自身を受け入れられぬ揺れ動きの感情が見て取れ、
2人の愛する女性によって押し潰されそうになりながらの狼狽えも情けなさ倍増でした。(褒め言葉)

渡邊さんは、登場時は戦士にしては予想よりもソフトで上品であった印象。
ただこれは、一癖も二癖もある役柄を多々務めてこられたトゥールーズ時代の映像を頻繁に観ており
また1月には藤原歌劇団『椿姫』にて椅子からずり落ちそうになるほどの強烈でギラリとしたオーラを発散する闘牛士を2度も鑑賞し
求めるソロルの理想像が高過ぎてしまった或いはプティパ作品の中でも観たい役上位であったが故
キャスト決定以降闘争心剥き出しな鋭い戦士っぷりを脳内で描いたりと
楽しみなあまり想像を巡らし過ぎていたためであると思っております。
そうはいっても『眠れる森の美女』韃靼系求婚者といい中村恩恵さん版『火の鳥』黒子といい
雑誌でモデルまで務められた着物といい東洋地域の衣装の着こなしがまことに自然であると惚れ惚れ。
ソロルの渋めの色彩の衣装もよく似合い、絵になる姿は期待値を更に上回っていました。

本来は道を踏み外した行為であっても1幕でのニキヤを優しく愛おしく包容しながらのパ・ド・ドゥでは心が洗われ
3幕冒頭でのニキヤを死なせてしまった後悔を吐露しながらの場面も
薄暗い舞台に1人で表現せねばならぬ、下手すればぶつ切りで何も伝わらぬ場面にもなりがちな難しさがありますが
密に表現を組み立てていると思われ、ニキヤを死なせてしまった自身が憎くてたまらず絶望する感情が全身から表れていて
震えずにはいられず。しかもよくよく見るとこの場面もテクニックの見せ場でもありますが
ただ跳んで回っています状態ではなく曲の抑揚と調和しながらの表現にも目を奪われ
全幕バヤデールにおいてソロルを定点観測級に目で追い、更にはただ優柔不断なだけの戦士とは思わせず
どの場面においても説得力を持たせる人物を造形していて心にずしりと響いてきたのは
2011年1月に新国立公演にて主演された山本隆之さん以来約8年ぶりです。
幕切れでの持っていたヴェールが手から離れ、光を浴びながら力尽きて倒れ込む姿も美しうございました。

思えば遡ること9ヶ月前、2018年6月公演『眠れる森の美女』初日終演後のきものトークショー(当時の感想はこちらからどうぞ)にて
渡邊さんそして木村さんも今後挑戦したい役柄としてすぐさま挙げられたのがバヤデール。
渡邊さんは戦士の役もやりたい、木村さんはオリエンタルな趣きある作品でありドラマティックと
目を輝かせて語っていらっしゃり、前方席に座っていた私を含む筋金入りの新国立オタク約3名が我々も観たいと言わんばかりに
思わず先導して拍手をしてしまったことが懐かしく思い起こされます。
今回は頭飾りや帽子を被る役柄でしたので、毎度恒例の髪型考察はお休み。次回DTFにて再開いたします。

ガムザッティも個性様々。米沢さんは気高く澄ました表情でニキヤを追い詰める姿が恐ろしく
婚約式コーダにおけるフェッテは勢いといい勝利を確信した自信といい背中で式を引っ張る姿にも平伏すしかない迫力。
木村さんは他の役ではやや描き過ぎに思えたこともある濃いめのメイクが
役にぴたりと嵌り、絢爛たる姿。ニキヤを目にしたときにショックを受けて以降の心の浮き沈みを鮮やかに表現し
次回はニキヤも観たいと思わせます。

最もピュアな人間味があったのは渡辺さんで美貌の持ち主であり王の娘らしく気位は高くも
親が決めた結婚相手とはいえ憧れの存在であるソロルを前にすると少々恥ずかしそうにする表情もごく自然。
何しろ「いたく素敵な」結婚相手ですから、向かいに座ってもなかなか直視できないのは大いに納得です。
主役経験がまだなく緊張からか踊り全体が縮まってしまったのは本人も悔しく思っていらっしゃるはずで
こどものための『シンデレラ』義理の姉や『眠れる森の美女』カラボスでの
綺麗な中にチラリと光る独特の黒い表現に心を掴まれたのは鮮明に記憶しており
じっくり解釈し役を作り上げて臨んだことが窺えるチャコットダンスキューブでのインタビューも興味深い内容。
次回は挽回できると信じております。

衣装美術が壮麗極まりなく脇を固めるダンサーも美女美男揃いで立役も多数、
その中で王族の娘としての誇り高さそして主役として抜きん出た存在感を示さねばならぬ
ガムザッティは非常に難しい役であると痛感です。

王家の子女同士やおとぎ話ではないからこそ、主役ペアが紡ぐ色合いもそれぞれ違いが面白く
序盤の場面だからというわけではないが、森に例えるなら
小野さん福岡さんは全身でぶつかり熱いものが発生していて熱帯雨林、
清らかさや安らぎが漂う柴山さん渡邊さんはマイナスイオンに満ちた森林、
米沢さん井澤さんはそれらの中間(具体例が見つからずお許しを)といったところ。

菅野さんの大僧正は官能度は控えめだったもののヴェールを抱き締めたり、
火の前で怒りを充満させた形相がおどろおどろしく
一見寺院における日々のお務めに明け暮れる真面目一徹な僧侶にも感じたのも束の間
怒らせると閻魔大王の如き恐ろしさで、聖職者とはいえども人間である以上
高潔さだけでは生き抜けないとしみじみ。

貝川さんはいやらしさ十二分で(褒め言葉)細目をすっと流しつつニキヤを舐めるように眺める表情の背筋が凍りました。
しかし肉体は若く、史上稀に見る⁉筋骨隆々坊さん。怨恨や策略多発中の土地にお住まいの大僧正も状況を憂慮していたのか
信じるのは神と筋肉のみであったのか。人は裏切っても筋肉は裏切らないとでも唱えながら山にこもって若手僧侶とともに
筋肉体操なる修行を積んでいると勝手に想像いたします。

黄金の神像は4人とも跳躍力があり好演されていましたが中でも速水さんが秀逸。
上階末端席で観ていても、重厚感を示しつつ跳ぶときは力強く跳び上がり人間が踊っているとは感じさせぬ不思議な魅力大。
本物の神像が突如跳び上がり舞い始めたと錯覚させる衝撃がありました。
つぼの踊りは玉井さんが色っぽさの匂う艶かしさと軽やかさに見入り、原田さんの溢れんばかりの可愛らしさ、
柴山さんのニキヤとはまるでカラーが異なる朗らかな表情も良く、赤と水色を合わせた衣装も全員似合っていたのも好印象。

今回久々に注目したのはジャンペの最中のニキヤとソロル。格調と躍動感、オリエンタルな雰囲気が同居した
振付衣装音楽どれも好んでいるが故ついジャンペばかりに目が行っておりましたが
これまた山本隆之さんがソロルを踊られた2011年1月以来注目する運びに。
下手側テーブルに着いた2人のやりとりが個性色々、面白いのでした。
渡邊さんと渡辺さんはぎこちないお見合い状態で、「ご、ご趣味は…」「お茶とお花です…」
「果物はいかがでしょうか…」「いいえ、結構でございます…」と俯いたり会話が途絶えそうになったりと
政略結婚であっても惹かれ合うお互いから初々しさやもどかしさが募っていてどこか微笑ましい。
ならばついでにと言ったら失礼だが同日夜の福岡さん米沢さんも観察してみると
ガムザッティの美貌にも屋敷の内装にも大袈裟なぐらいに感心するソロルで
ガムザッティは気高さを保ちつつどんどん気を良くしていきまるでソロル1人合コン状態笑。
(モテ男ソロル、実は女性遍歴豊かで場慣れしているのだろうか)
井澤さん木村さんの様子は両日私の席からは観えず終いで心残りでございました。

そして1992年の英国ロイヤル・バレエ団来日公演において人生初のバヤデール鑑賞から早27年、
初めて注目した役柄がトロラグヴァ。注目云々以前に役名を声に出すのも初めてであり、発音も困難で
トロワグロ(パン屋)、トロワバグ(神保町の喫茶店)、ドログバ(コートジボワール代表のサッカー選手)など
類似名続発状態であったのはこれまで気にも留めない役柄であった証であると言わざるを得ません。
詳細な設定の記述もなく、ソロルの友人のようですが他の戦士と異なり1人だけスーパーマリオの如き髭付きで
茶色系の渋い色彩でありながら細かな装飾で彩られた服装や
頭に被った羽根つきターバンは戦士であってもそこそこ上流階級風。
2幕の婚約式では冒頭からソロルの付き人!?と化して登場し式の最中はラジャーの横で
椅子も用意されず僧侶たちと同様立ちっぱなしで傍観しており立場身分の謎深し。
実はソロルの二番手な位置づけを常日頃から悔しがり野心を抱き続けているのか
それともジャンペでも婚約式でも隣に座っているのはラジャーつまりは王位の座を狙っているのか
或いは密かにガムザッティへ想いを寄せているのか、いかんせん何の解説もないため定かではありませんが
バヤデールからの派生ドラマ『トロラグヴァの下剋上』なる作品が出来上がりそうと思い描きつつ
中家さん、渡邊さんとも男前な風貌で吸い寄せられる存在感がありました。
特に3日(日)と10日(日)は主役そっちのけでトロさん祭りな事態となり
華麗なる婚約式が繰り広げられている舞台後方中央付近に立っていても
目を奪われる堂々たる佇まいに野性味と色気の両方を備えていて魅力的なことよ。
一昨年から始めた移籍前の映像をあれこれ眺めながら姿を重ね妄想に耽っておりますが
『ライモンダ』のアブさんをいつか踊っていただきたいと切に願います。

音楽で話題になっていたのはニキヤの花籠の踊り。
後半が急速テンポではなくマカロワ版と恐らくは同じ悲哀感を引き摺る曲調で当初は驚き
マカロワ版を上演している英国ロイヤルのシネマを観ながら
新国立ではニキヤの健気で渾身の力を思わせる急速テンポ版を聴けると心待ちしていただけに
残念にすら感じておりました。どうやら、急速テンポ版はザハロワ仕様だったようで
私が新国立でのバヤデール初鑑賞が2008年のザハロワさん主演舞台であったため、
てっきり最初から用いていると思い込んでいたのでした。
しかし聴いていくうちに頬を伝う涙を彷彿させる元の編曲も
悲しみをを増幅させてドラマが盛り上がる展開へと繋がり、両方甲乙付け難い魅力があると思えた次第です。

挙げずにはいられないまさに「影」の主役は3幕のコール・ド・バレエ。
現在32人制を採用しているバレエ団は減っており、(マカロワ版は24人)しかもジグザグの3段坂で
新国立のレパートリーの中でも特に緊張を強いられる場面でしょう。
ただ均一に揃っているだけでなくふわりと繊細で1人1人から醸される柔らかな余韻が合わさり
幽玄な美が連なっていくさまはまさに溜め息が零れる情景。
中盤ニキヤとソロルを半円で囲み、床に倒れ込むような中途半端な座り姿勢で
片腕で床を支え、もう一方の腕で一斉に開閉を繰り返す箇所もまことに辛い体勢であるのは想像に難くありませんが
2人に語りかけるような腕のラインの優雅さ、そして全体の調和にも目を見張りました。
事前に掲載された新国立のアトレ会報誌での中田実里さんへのインタビューがコール・ドの魂が込められたな内容で面白く
坂を下りて平面に立った直後が最も危ないことや、先頭に立ったとき背中で後輩たちを安心させるよう心掛けなど
うっとり幻想的な場面をいかにして作り出していくか分かりやすく語っていらして
他作品のコール・ド・バレエについても知りたいと思わせるエピソード満載。
全日程呼吸の合った美しさを生み出していたのは個々の集中度が高く、誰1人として気も抜かず舞台に臨んでいたからこそ。
更には辛さ過酷さを一切顔に出さず影に徹していた点も心から讃えたいと思うばかりです。

1幕に登場する淡い水色の衣装を纏った舞姫たちの涼やかな神秘性も目と心に潤いを与え
聖なる空間に迷い込んだ気持ちにさせてくれる場面でバレエ団のファンである点を差し引いても
数あるバヤデールの中でも抜きん出た美しさであると痛感。何度観ても体内が浄化され、夢見心地の気分にさせられます。

演出振付については、初演時の2000年から約20年が経ってバレエ団の状況も変化を遂げており
せっかく男女とも層が厚くなってきたのですから男性の見せ場が増えると尚嬉しい。
大作といえども男性の活躍場がとにかく少なく、加えれば式も間違いなく盛り上がりますから
いっその事太鼓の踊りの追加を提案。男子、エネルギー有り余っていますし
婚約式は途方もない財産を所有しているであろうラジャーの取り仕切りですからとことん豪勢にして余興客が増えてもおかしくはなく
もし劇場の懐具合が厳しく新しい衣装の用意が困難であれば、
苦行僧たちをそのまま投入してお祝いに来た設定でもさほど衣装に違和感はなさそうですから(いや、あるか)
妙な想像はさておき奉納では一気に空気が変わる、殊更ジェットコースターのような式の展開も観てみたいと興味津々です。

完成度が高いと思わせた美術の1つがソロルの肖像画。西洋人東洋人両方の端正な男性を足して2で割ったような描画で
すらりとした体躯も良し。この絵なら喜びを露わにするガムザッティに説得力を持たせます。
牧版バヤデール初演から4年後の2004年に初演した『ライモンダ』ではジャンの肖像画が
なぜにふっくらお饅頭の騎士なる絵になったのかやはり理解に苦しみ
いくら現代と中世の美意識が異なっていたとしてもあれを見て喜ぶのは無理があるでしょう。

衣装装置の大半は文句の付けようのない壮麗豪華なデザインですが、唯一申したいのは聖なる火の装置。
ボリショイシネマ『ラ・シルフィード』でも触れたとおり、電気コードが丸見えなのです。
インダス文明で栄えた街は実はフォークリフトやクレーン車を用いて建設された、或いは
古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に電化製品の記述があればまだしも
世界に先駆けて発展した地域周辺が舞台とはいえさすがに電気は存在しなかったでしょう。
隠す構造にするなりして一工夫欲しかったと思えてなりませんでした。

ソロルが気を紛らすために吸うのは水タバコと書かれていますが本来は薬物。
ただ昨今、つい最近も判明した著名人の事件もありますし国立の名を持つ団体では水タバコが限界なのでしょう。
ソロルによってはクラリネットまたはオーボエ吹きに見えてしまったのはご愛嬌として捉え(管理人、一応吹奏楽経験者)
寝台にだらりと倒れる際も乱離骨灰にならず何処ぞの高貴なお方かと問いたくなる美しい眠り姿は
水タバコがもたらした効果であるかは疑問ですが、水が付いているとはいえ
タバコが身体に与える影響は今昔関係なく良いものではないといえます。
ちなみに初台の隣、幡ヶ谷駅そばにある、海外からの観光客も多数宿泊のサクラホテルでは
もしかしたら宿泊客のみかもしれないが水タバコ体験ができるらしい。ご興味のある方はどうぞ。

音楽はミンクスで、明快で耳に馴染みやすい曲調ですが
『ドン・キホーテ』や『パキータ』に比較すると遥かにドラマ性に富んでいると再確認。
人物たちの台詞がそのまま曲に表われ、あらすじだけでなく所々音楽も演歌調。
一方クラシックの技術をしっかり魅せる場面ではいかにもミンクスらしいズンチャッチャ旋律も散りばめられ
親しみやすさとドラマ性の濃い曲のバランスが良いと感じさせる構成です。
恐らくはミンクスが東洋を旅行したわけではないでしょうが、インドへの想いを馳せながら作曲したと思われ
随所には東洋幻想が盛り込まれてインドとはだいぶ距離はあるものの極東アジアで育った者が聞いても可笑しいとは決して思わず
それどころかただ踊るための曲ではなく人物の心情や場面の状況を色濃く描写した曲がふんだんにあって
何度観ても聴いても飽きぬ作品として仕上がっています。
加えて牧版の衣装は他作品では使い回せない独特のインドの文様が大胆に描いたチュチュを始め、インド色が強い。
1点1点目を凝らして見たくなるデザインばかりです。

それから「久々に」ソロルの登場シーンを瞬きもせず観た後に思ったのは
他の版に比較してソロルが最も誉れ高い戦士に見える冒頭であること。
記憶違いがあれば申し訳ないが、例えばグリゴローヴィヂ版はソロルを出迎える戦士たちの登場で
槍を持ちながら2歩歩いて3歩目でジャンプ1回、この動きを繰り返し、妙な可笑しさがまさってしまい笑いが止まらず。
マリインスキーではソロルが仕留めた大きな虎も登場するのだがふかふかのぬいぐるみで
蜂蜜好きなくまさんのお仲間かと見間違えるほど、
戦士の登場のはずが文京シビックホールでほんわかした気分に浸ってしまったのでした。
マカロワ版はソロルは縦にひとっ跳びな登場で、まずまず迫力はある振付です。
対する牧版は、出迎える戦士たちも行進するのみで余計なことはせず、ソロルは対角線上にジュテ(多分。技術用語自信ないが)で
スパスパっと斬り込むように跳びながら登場。ラジャーの目にも留まる戦士であり娘との結婚相手に選ばれるに相応しい
勇猛果敢な鋭さが十二分に表れ、脇も文句なしの引き立て役として冒頭シーンを支えていると思えます。
たった30秒程度の場面ですがここがしっかりとしなければ後々は板ばさみになって
苦悩し弱っていくソロルを描いていくうえで対比が成り立たず、その後の展開が面白くなるか否かと決定付ける場面と感じております。

作品そのものは昼のメロドラマも仰天な陰謀、憎悪、裏切りといった負の要素が濃いバレエですが
単なる泥沼化した事件とは捉えきれぬところに魅力が凝縮しているといえます。
清純そうなニキヤがそもそも神に仕えていながら戦士と恋仲になってしまっている大胆な掟破りが事の発端であり
ソロルは職務のためとはいえども結果として2人の女性に愛を誓ってしまったのはやはり宜しくない行為です。
恋をしてしまった聖職者である大僧正、毒蛇の仕掛け最たる立役者疑惑もあるラジャー、
ひょっとしたら一番純粋に生きているかもしれないガムザッティもソロルを譲りたくないがためにニキヤを追い詰め
刃を向けられたら危機感をより強めるのも納得がいきますが抹殺宣言はおぞましい。
主要人物の誰もが負の要素を露にしてしまい、歯車が狂っていくドラマを深い森の中の隔離された寺院、
壮麗な宮殿や華麗なる婚約式、そして影の王国の白で覆われた場面から寺院崩壊を経て
ソロル1人が取り残されてニキヤだけが天へと昇っていく幕切れとメリハリのある物語と色彩に富んだ展開で描いていく
恐ろしくも濃密で面白味ある牧版バヤデールは完成度が高いとこの度も連日堪能。
妄想も掻き立てられ、また様々なキャストで観たい作品です。

※不安が的中してしまいましたが、アリスで力尽きてしまったのかバヤデールの宣伝が全然なされていなかったのは非常に残念。
写真1枚掲載するだけでも効果は大きく変わってくると思いますが、せっかく開始したバレエ団のインスタグラムにおいても
バヤデール関連の発信がありませんでした。NBA白鳥の湖やルグリのガラ、Kバレエカンパニーカルメンに東京シティと
公演が多数重なっていた時期ですし、とにかくどの日も上質な舞台でしたから
尚のこと宣伝発信に力を注いで欲しかったと思います。『シンデレラ』や『アラジン』ではまめな更新を切に願います。


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今回は公開クラスレッスンが2回開催されました。
2回とも見学いたしましたがともに定点観測状態で綴っていくと特定のダンサー観察日誌状態となるため感想は割愛。
無責任発言で申し訳ございませんが、レッスンの内容や様子については他の見学参加者にお尋ねください。
1回目のクラスレッスン後、余韻に浸ってさあビール。(このあと公演鑑賞を控えているのだがまあいいか)


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今回の公演限定カクテルはあまおうとバルサミコとパッションフルーツ。甘うございます。


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3月9日(土)昼公演にて毎度の儀式。初ソロル、首を長くして待っていたことよ。(何度見ても見返り美男だ)


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3月9日(土)夜公演前、当ブログでも大変お世話になっている方と昼公演を振り返りながら暫し会話。
ブルーベリーのケーキに赤ワインが合いました。管理人、昼公演が終わって気が抜けた状態でしたが
優しく耳を傾けてくださり深謝。


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帰りは最近開店したインド料理店にて、王室も愛したと記されているインドのビールで乾杯。
ラジャはキンキラキンの杯でビールも飲んでいたのだろうか。


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パニールと野菜のチリソース炒め、ビールが進みます。(インドのオッサンか笑)


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3月3日は終演後カレー店にて家族集合、少し遅めの母の誕生日祝いです。
ひな祭り当日、餃子モモでまず乾杯。ある意味「モモの節句」でございます。
我が家はもうかれこれ◯◯年雛人形も出しておらずカレー店で祝うとは。


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インドのキングフィッシャービールとカレーを囲んで。私はバヤデールの余韻にも浸りつついただきます。


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デザートに注文したアイスクリームにかけるソースとしてラム酒も付いていました。
グラス一杯分は余ったため、母と妹が2人して話し込んでいる間に
この日のトロラグヴァさんを思い出しながらうっとり気分になりつつ気づけば完飲。
ストレートで飲み干したんかいと驚きを隠せない様子でしたが
他の家族親族と異なり学業は平均にも及ばずであった長女、成人してから強みが増えた笑。


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公演最終日の朝も公開クラスレッスン開催。感想はこちらも割愛。
2017年のバレエアステラス前に開催されたツィスカリーゼさんによる公開レッスン見学時のように
全体を隈なく眺めるには今回も昨年の『ホフマン物語』と同様至らず終いでございました。眼福だったから良いか。


事前の記事にも書きましたが、3月9日(土)昼公演には管理人の母も参りました。
いつか主演の舞台をきちんと、王子も良いが可能なら貴公子系ではない役柄で観て欲しいと思いつつ
ロメオはまだ先ですしドラマティックバレエは母苦手なためならば3月のソロルが一番望ましいと決断。
新国立のバヤデールは2011年にゲスト日を鑑賞しているのですが本人全く記憶にないそうで今回が実質初鑑賞で
先入観なく観て欲しいためキャストについては聞かれなかったこともありますが教えず
ただ美術衣装が壮麗豪華で大人数が出演する舞台ならば興味がありそうでしたので来てもらった次第です。
コール・ド・バレエを観るのも好きなため座席が前過ぎて(1階前方)不満があるとぼやいてくるかと思いきや
美術衣装の豪華さやスケールの大きさに圧倒され、ダンサーの姿もよく見えて心から楽しんでいたそうで安堵。

そして主役3人についても頗る好感を持ったようで、ニキヤの人はすらりとして清楚で良かった、
お姫様(ガムザッティ)も綺麗だったし、ソロルの人は上手いし結構背もありそうだし
(お顔も素敵やでと言いそうになったがそこは堪えた笑)
この3人の方々の組み合わせで見ることができて良かったと話しておりました。
男性ダンサーの雰囲気としては我が家では全員敬意を表し「先生」と呼んでいる山本隆之さんは別格として
Kバレエカンパニーの華やかさを好む母が、ソロルのダンサーについてマイナスな事を一切言っていなかった点も驚きでした。
夜公演では小野さんと米沢さんが対決する組み合わせだったと念のため教えたところ
それは怖そうであると興味は抱いたようでしたが、ただもし知らずに購入しようとしたら
小野さんの日を買っていたと思うけれども昼のような若手育成の回を観るのもとても良いね、と
いたく満足していたのは間違いなかったもよう。

実は1月の藤原歌劇団『椿姫』も母は初日に劇場で観ておりまして
(真の目的には触れずオペラを観に行くと話したところ観てみたいと言い出し、バレエ云々関係なく上野に来ました)
放送録画も一緒に観たのですが、本日昼のソロルの人は椿姫の闘牛士と同じであったと教えたものの
すぐには脳内で一致しなかった様子。しかし暫くして「あの字の難しい人か!」とようやく分かったようでした。
椿姫とバヤデールを通して何かしら良い印象は残ったそうで胸を撫で下ろし、
人間とはかくも単純な生き物であるとこの度も自身を顧みつつ翌日から一層の親孝行を誓ったのでした。

父親と瓜2つに近い貝川さんラジャーについては、生活水準があまりにかけ離れた役柄設定のためか
或いはガムザッティが実の娘(つまり私だが)とは比較にならないほどの美貌の持ち主であり、
加えていたく素敵な結婚相手まで決まっているという羨んでも決して手に入らぬ状況設定のためか
身内に重ねるにはとても至らなかったようですがそれは納得。

※10年前の新国立ライモンダ男性主役に変更が生じた建国記念の日が初めて母に新国立劇場へ来て貰った日でした。
10年が経過した現在も似たようなことを相変わらず行っている管理人でございます。


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