3月2日(土)、NBAバレエ団『白鳥の湖』を観て参りました。
新国立劇場での『ラ・バヤデール』初日終演後そのまま上野へ向かい、同じルートの観客多し。
375年(授業にて皆ゴー、で覚えた方もいらっしゃるかと思います)のゲルマン民族大移動ならぬ初台族の大移動です。
http://www.nbaballet.org/performance/2019/swan_lake/
オデット/オディール:平田桃子(英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)
王子:高橋真之
ロットバルト:宝満直也
王妃:朝見麻衣子
ベンノ:前沢零
パドトロワ 鈴木恵里奈 野久保奈央
大きい白鳥:浅井杏里 猪嶋沙織 阪本絵利奈 関口祐美
小さい白鳥:伊東由希子 大島淑江 勅使河原綾乃 米津美千花
姫:竹内碧 柳澤綾乃 須谷まきこ
スペイン:新井悠汰 安西健塁 大森康正 河野崇仁 清水勇志レイ 三船元維 多田遥 森田維央 山田悠貴
マズルカ:伊東由希子 浦野梓 児玉彩香 津田真実 小林治晃 高橋開 長谷怜旺 古道貴大
ポルカ:北村桜桃 木村優花 武井由香里 向山未悠 佐藤史哉 竹内俊貴 玉村総一郎 中村瑛人
ルスカヤ:北原佑季子 白井希和子 鈴木恵里奈 平居郁乃
平田さんは小柄で非常に華奢ながら力に溢れたオデットで弱々しさは皆無。
長年バーミンガムでトップを張っている経験の豊かさを思わせる統率力のあるヒロインとして魅せ
腕を広げて侍女たちを守ろうと懇願する姿、静謐な場面においても
一挙手一投足でドラマを描き上げる姿から目が離せませんでした。
鉄壁の技術が特に光っていたのはオディールのコーダで、
いとも簡単に一度に何回転しているのか混乱するほどのスピード感、安定した軸に仰天。
決して体操競技状態になっていない点も好感を持ち、王子を更に翻弄する魔性が
いよいよ頂点へと達する勢いすら感じさせて騙されてしまう王子の誓いに説得力を与えていました。
高橋さんはこれまでマキューシオやスターズアンドストライプスなどテクニック系の役の印象が強く
『くるみ割り人形』ではカヴァリエも務めていらっしゃいますが
2月の日本バレエ協会『白鳥の湖』でも道化を好演されたばかり。
どんな王子になるか楽しみと不安半々でしたが、現れてびっくり。見るからに爽やかで端正な王子でした。
さっぱりとした趣きで、個性的なパーマも封印し自然なさらさらヘア。
(スターズアンドストライプスとマキューシオではなかなか独創的な髪型でした)
役をどう見せるか踊り方を徹底して研究されたのでしょう。これまでよりも背が高く見え、思い悩む表情も良く
あどけなさを残しつつもオデットに出会ってから徐々に大人びていく様子も明確でまことに驚かされました。
主役並に見せ場も多いロットバルトには演出も手掛けられた宝満さん。
白いオールバックで、暗雲が立ち込め不穏な展開を予期させるプロローグから
オデットと王子の行く末の鍵を握る人物として物語を引っ張っていらっしゃいました。
オデットのみならず王子も登場するプロローグについては
私の理解力欠陥が問題なのだが設定が分かりづらい印象があったとはいえ
これまでに目にしたことがない独自の演出に想像を逞しくさせる効果もあったのは事実です。
会場で、また翌日の新国立劇場でも最も話題になっていたのは音楽の使い方。
入れ替えが多々あり、スタンダードな演出とはだいぶ異なる選曲でした。
例えばパ・ド・トロワはあるもののお馴染みのゆったりしたワルツで始まるのではない曲で
女性のヴァリエーションでは元は花嫁候補のソロ、現在では
チャイコフスキー・パ・ド・ドゥの女性ヴァリエーションで親しまれている曲が使用されていて当初は違和感大。
舞台への集中が途切れかけてしまったときもありましたが
3人ともきびきびとした正確な軽快さのある踊りで、自然と見入っていきました。
また民族舞踊(確かルスカヤ?)ではジョン・クランコ版『オネーギン』で
オネーギンがオリガと戯れる際の曲が使用されるなど
従来の『白鳥の湖』とはだいぶ曲変更がなされ、耳に馴染みはあっても心がついていかぬ箇所多数。
多少演出に独自性はあるにせよ音楽が元々密な構築によって完成され、世界各国で上演を重ねている
バレエの代名詞ともいえる作品において音楽を大胆に入れ替えた演出によって
観客を引き込むことがいかに難しいか感じた次第です。
そうはいっても戸惑いばかりではなく、むしろ工夫が凝らされ面白みがあると思わせた箇所の印象のほうが強く
例えばスペイン。男性9人構成でキャスト表を見た際には女性ダンサーの長いスカートが翻すさまを
目にできないのは光景に艶やかさが欠ける心配も募りましたが
技術や身体能力の高さを備えた男性ダンサーたちのダイナミックな持ち味が舞台一杯に表れた力作で
ロットバルトの手下である設定は目まわりを黒く彩る悪人風メイクだけでなく
身体の節々から出る王子を陥れる気満々なギラッとしたオーラからも明らか。
ダンサーの持ち味を知り尽くしているからこそ出来上がった大きな見せ場はこの日一番の喝采だったでしょう。
場面は戻って、1幕終盤に狩への出発を憂愁な曲ではなく序曲のような勇壮な曲を用いて
男性たちが一斉に出発する箇所も他にはない演出。
王子が友達に恵まれ、このときばかりは吹っ切れた若さが垣間見えて面白い展開でした。
スペイン以外は各国の姫君たちが民族舞踊を従える演出で、切り貼り感なし。
2年前に立川で観たスタジオカンパニー公演でも感心し、やや長めのふんわりとした
色違いの鮮やかなチュチュを着た姫たちのゴージャスなこと。
気品がありながらもプライドのぶつかり合いも感じられ、締まりのある舞踏会でした。
そして白鳥のコール・ドの揃い方も忘れられません。特に円形から左右対称に人の字に並んでいく
複雑なフォーメーション変化は息を呑み、白鳥に変えられた悲しみとオデットを慕う優しさもが伝わる
全員の心の合わせ方にも拍手です。
衣装は全体を通して品良くカラフルで特に1幕ワルツ女性の桜色は春めいた喜びに溢れ、祝祭感を後押し。
紅色とピンクの袖にスカート部分や頭飾りにピンクと金色を取り入れたルスカヤも可愛らしく
細かな模様の数々を凝視せずにいられませんでした。
脳裏に刷り込まれているが故、音楽の用い方に関しては首を一瞬傾げる場面もありましたが
昨年の『海賊』に続き新作の続々発表に踏み切る勢いに、バレエ団の今後の公演にも期待感を抱かせます。
5月公演『リトルマーメイド』と『真夏の夜の夢』再演も今から楽しみです。
帰りは御徒町まで歩きドイツ料理店へ。
(2階は美容院で読み方はロメオとのこと。新国立2019/2020シーズン開幕前に行ってみるか)
ドイツ風ラビオリのグラタンとケストリッツァーシュヴァルツビアで乾杯。
1人でも丁度良いメニューも多種揃っています。