この度の北海道胆振東部地震により被災された皆様ならびにそのご家族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
秋晴れの札幌を訪れた4日後まさかこのような大きな地震が発生するとは思わず、大変胸を痛めております。
皆様の安全と被災地の一日も早い復興、平穏な生活が戻りますことをお祈り申し上げます。
札幌で鑑賞した舞台の感想をまだ道内のライフラインも全面復旧していない最中に書いて載せて良いか悩みましたが
ニトリ文化ホールに集結した方々の心がこめられたとても素敵な公演でしたので
舞台の感想は綴って参ります。旅の写真は時間を置いて紹介したいと思っております。
9月2日(日)、北海道札幌市にてニトリ文化ホール閉館ファイナルバレエ公演
(Final Ballet in NITORI BUNKA HALL ~ for the next stage ~)を観て参りました。
北海道でのバレエ鑑賞は7年ぶり、札幌市での鑑賞は2007年に今回と同じく
ニトリホール(当時の名称は北海道厚生年金会館)にて下村由理恵さん山本隆之さんが客演された
全道バレエフェスティバルインサッポロ篠原聖一さん版『ドン・キホーテ』以来11年ぶりです。
https://haf.jp/dsp_event.php?n=203
※ファイナルバレエ実行委員会のフェイスブックに北海道新聞にカラーで掲載された
公演に向けての記事が紹介されています。
第1部は創作と古典のパ・ド・ドゥ構成。坂本登喜彦さん振付のYoung Spirits-未来へ-は
ジュニア世代の男性14名による作品。チャイコフスキーの弦楽セレナーデに乗せて変化に富んだ展開を見せ
初々しく爽やかな舞台が繰り広げられました。
ジュニアとは言っても小学生ぐらいから高校生ぐらいと思われ年代は様々。複数の団体から集結していながら
統一感があり、品を保ちつつタイトル通り若さ溢れるパワーを貰い観ていて清々しい気持ちになりました。
続いては長瀬伸也さん振付でご自身も出演のDoubt。暗闇の中で拳銃?を手にした
緊迫感ある男女2人の駆け引きに釘付けとなり最後は女性の勝利。女は怖し。
楚々とした雰囲気のプログラム写真からは想像が付かぬ阿部衣梨子さんの豹変ぶりにも驚かされました。
長瀬さん振付のもう1本はFRIENDS-ハイライト-。お洒落に着飾った少女たちが
邸宅のような立派なお家のパーティーに集まり、生真面目な人もいれば弾ける人もいて
淑女らしい立ち振る舞いをしながらもてんやわんやの大騒動を起こしたりと笑いが零れる作品で
個性様々な人間模様を観察。
宝満直也さん振付Winter Danceは宝満さんと久富淑子バレエ研究所の生徒さんたちによって踊られ
タイトルからして白銀に彩られた作品かと思いきや、
春の息吹を思わせるカラフルでほんわかした色彩と穏やかな踊りに心癒されました。
冬が長く、だからこそ春の訪れの喜びは他の地方以上に大きいのであろう北海道にて鑑賞できたのは幸運です。
長年に渡って北海道の舞踊会を牽引されている方々の作品もあり、
桝谷博子さんの『椿姫』よりアリアでの花を抱きながらの孤独感や
能藤玲子さん率いる舞踊団『白い道』での、誰1人白い衣装を纏わず
赤い衣装で真っ赤に力強く染めて行く流れには試練にもめげず、
壁を乗り越えてこられた労苦の道のりを想像させます。
第1部の最後は桝谷まい子さんと清水健太さんによるグラン・パ・クラシック。
大らかで華のある桝谷さんと柔らく端正な清水さん、調和のとれたお2人で
桝谷さんのブラウンとグリーン、ゴールドを重ねた渋みと豪華さのある衣装も映え
この部唯一のクラシックのグラン・パ・ド・ドゥに相応しい華やぎをもたらしてくださいました。
第2部は『眠れる森の美女』第3幕。幕が開くと、これまであまりお目にかかれなかった
国王夫妻と貴族たちによるサラバンドの披露です。
国王は篠原聖一さん、王妃は渡辺たかこさん。ゆったり優雅な身のこなしで
国王チームと王妃チーム分かれての展開もあり、決して明るくはない音楽にも関わらず
すっと引き寄せられ祝宴の幕開けを盛り立てホールへの愛が込められたサラバンドでした。
踊り終えると国王夫妻は上手側の玉座に、貴族たちは各々腰掛け、いよいよ童話の主人公たちや妖精の登場です。
宝石の精は女性4名構成で、現在谷桃子バレエ団での活躍目覚ましい馳麻弥さんが一段とオーラを発散。
4名全員別々の団体所属ですが呼吸も合って一体感があり、麗しさで満たされました。
長靴をはいた猫と白い猫は被り物無しでお顔がよく見える衣装でしたが
猫らしい仕草や身体の動きできちんと猫に見え、貴婦人風の白猫とお洒落な長靴猫ペアで可愛らしさ満点です。
札幌舞踊会の郷翠さんの色っぽいフロリナと伸びのある跳躍のブルーバード西野隼人さんも印象深く
クンクンとあたりの匂いを嗅ぎながら赤ずきんちゃんと行動を共にしようと企む狼さんと
籠を手に奮闘する表情豊かな赤ずきんちゃんのやりとりも楽しく自然と笑いが沸き起こりました。
我ながら驚いたのがシンデレラとフォーチュン王子。これまでに何度も観ておりますが
どうしても宝石やフロリナたちに押され気味で今1つ印象に残らずでしたが今回は大違いでした。
まずKバレエカンパニー栗山廉さんの王子様オーラが半端ない。好みは別として(失礼)すらりとした長身に
長い手脚から繰り出されるきらきら光線がホール中に広がっていたのは明らか。
地元札幌出身で、喝采の拍手で迎えられました。
細身で小顔、スタイル抜群で、慌てて逃げたり再会に戸惑うシンデレラと
追いかけてきた王子との感情の通わせがパ・ド・ドゥの中で成り立ち、見栄えもお似合い。
『眠れる森の美女』の中のシンデレラと王子がこうも印象に刻まれるとは正直驚きました。
次のお2人、大重圧と冗談抜きに感じた次第です。
さて、お待ちかね主役登場。オーロラ姫は北海道出身で新国立劇場バレエ団ファーストアーティストの飯野萌子さん。
主役は初見、おっとりほのぼのとした魅力に王女らしい気品が加わったとてもチャーミングなお姫様で
盤石の技術で正確で美しいステップ1つ1つに見入りました。
3幕のみの上演でも、皆に愛されすくすく育ったで姫であろうと窺わせます。
デジレ王子は新国立劇場バレエ団ファーストソリストの渡邊峻郁さん。
それはそれは姫を大事に丁重にサポートしながら優しい視線を送り、
将来の国王就任に大いに納得できる威厳や品格も持ち合わせた姿や
吸い上げるように柔らか、エレガントで力のある跳躍にも魅せられ
空路を使い津軽海峡秋景色を眺めながら足を運んで良かったと心から感じたのでした。
飯野さんと渡邊さんはアシュトン版『シンデレラ』にて夏の精と王子の友人や
『白鳥の湖』パ・ド・トロワで組んでいましたが真ん中で組む姿を札幌で鑑賞できるとは感激。
そして札幌でもやります髪型考察。日中に訪れた羊ヶ丘展望台から眺めたクラーク先生像と羊の群れ景色に和んで
私もだいぶ寛容になったせいか否かは分かりませんが、前週のジャポンダンスプロジェクト公演と同様
自然な整え方と見受け、イーグリング版と異なりリボン無しでも丸。お2人とも前週新国立劇場で開催の
ジャポンダンスプロジェクトにご出演でしたが見事なまでにクラシックスタイルに切り替え、
歴史あるホール最後のバレエ公演における締めに似つかわしい姫と王子なる姿でした。
アポテオーズで雅やかに音頭を取られていたのは国王の篠原さん。
オーロラとデジレ王子そして全員に優しい目配せをなさり、厚生年金及びニトリ文化ホールで数々の舞台を踏まれ
そして全国各地で振付演出をなさり多くの方々から慕われている篠原さんのあたたかいお人柄が滲み出た場面でした。
カーテンコールは眠り3幕のマズルカに乗せて拍手はなかなか鳴り止まず何度も何度も続き、
最後の最後は千田雅子さんたちが花を舞台に置かれ、花が観客を覗くようにして
幕は中央部分が少し開いたままお別れとなりました。
プログラムにも力が入っていて、全編カラー綴りでリハーサル写真のみならず
厚生年金会館時代を含む過去の舞台写真や札幌五輪前年の1971年竣工当時の新聞記事も
多数載せていて、ホールの歴史を辿るような書籍です。
挨拶文をお寄せになっているのは石川みはるさん、久富淑子さん、千田雅子さん、小泉のり子さん、桝谷博子さん、
篠原聖一さん、坂本登喜彦さん、そして見開き2ページ割いて熊川哲也さん。北海道に縁深い重鎮の方々ばかりです。
厚生年金会館、ニトリ文化ホールとの思い出を熱く語っていらっしゃり
文面だけでも思い入れの強さが胸の奥にまで伝わってきます。
熊川さんにとっての厚生年金会館初舞台は12歳のときで、石川みはるさん振付の『風車の見える丘』だったそうで
軽やかに跳躍をする当時のまだあどけない写真も掲載。
現在オーチャードホールの芸術監督として劇場と人々の繋がり、あり方についても触れていらっしゃいます。
ファイナルバレエ公演もプログラムも、冠の企業名にちなんで例えるわけではありませんがお値段以上の内容でした。
ニトリ文化ホール閉館後に開場するのは札幌文化芸術劇場hitaru。
来月には振付演出を篠原聖一さんが手掛け、酒井はなさんと福岡雄大さんを主演に迎える
日本バレエ協会主催第39回全道バレエフェスティバル・イン・サッポロ『ドン・キホーテ』が開催され
11月には新国立劇場バレエ団が初の北海道公演として『白鳥の湖』を上演。
12月には札幌舞踊会創立70周年記念公演『カルミナ・ブラーナ』が予定されており
厚生年金会館、ニトリ文化ホールで育まれた舞台芸術のバトンは確実に受け継がれていくでしょう。
長年北海道における舞台芸術の殿堂として憧れ愛されてきたホールの閉館を惜しむ
北海道でバレエに携わる方々の心がこめられた素敵な公演でした。
私にとって初めての北海道厚生年金会館、最後のニトリ文化ホールそれぞれのチラシと一緒にホール前で記念撮影。
さっぽろ雪まつり閉幕直後の骨組みを眺めながら大通公園の雪道を歩いて会場へ向かった
2007年の全道ドン・キホーテには、今回も大活躍だった栗山廉さん、馳麻弥さんが子役で出演なさっていました。
とても可愛らしく、当時のプログラム写真に写っていらっしゃいます。
札幌市民と観光客も憩う、緑豊かで花が咲き誇る大通公園。テレビ塔を背景に踊り手の像が聳え立っています。
札幌文化芸術劇場hitaruが入っている鏡張りが眩しい札幌市民交流プラザ外観。来月待望の開館です。