日本バレエ協会公演『ラ・バヤデール』初日を観て参りました。バレエ協会でのバヤデール上演は初とのこと。
ニキヤ:酒井はな
ソロル:浅田良和
ガムザッティ:堀口純
大僧正:小林貫太
ドゥグマンタ:本多実男
黄金の神像:アレクサンドル・ブーベル
マグダヴェヤ:小山憲
1幕の奴隷?:輪島拓也
アイヤ:鈴木裕子
壺の踊り:副智美
太鼓の踊りソリスト:テーラー・麻衣 荒井成也 吉田邑邦
影ソリスト:ヴァリエーション1.廣田有紀 ヴァリエーション2.馬場彩 ヴァリエーション3.平尾麻美
ガムザッティの友人:出雲加奈子 大山裕子 大長亜希子 深山圭子
女官:青島未侑 木下真希 小林旺世 新田春保
酒井さんのニキヤは初見。しっとりと慎ましい立ち姿に魅せられ、内面から滲み出る情感に感激。
大僧正にも決して強い拒絶を示すことなく、ご自分の地位を考えるようにと優しく問いかけているかのよう。
法村版はロシア版に沿った演出で、ボリショイやマリインスキーにもある
1幕中盤のニキヤと奴隷の男性による踊りが含まれ、
酒井さんの天を仰ぐような大らかさ、心のこもった一挙手一投足に吸い寄せられました。
輪島さんが黒子と化してサポートに徹していたのですが、
重要な役どころながらチラシに名前がなかったのが残念。(あとから決まったのかもしれません)
奉納の踊りでは愛する人の婚約を祝す場所で披露せねばならず、悲しみに耐えながらも
儀式に相応しい厳粛な舞いを捧げるニキヤの姿に胸が締め付けられました。
浅田さんは登場したときにはやや線が細いかとも感じましたが
踊りはびっくりするほど力強く、テクニックとサポートも盤石。
ご本人のブログによれば、17年前の酒井さん主演の新国立劇場バレエ団『ラ・シルフィード』に
子役として出演した経験があるそうで、酒井さんに対する尊敬の念が
そのままニキヤへの愛に重なり、とても良いパートナーシップでした。
ガムザッティを一目見てはっと見惚れてしまう正直さは分かりやすく、
何しろ堀口さんが煌めくような美貌であるため思わず同情。
堀口さんのガムザッティは登場しただけで周囲に光を撒き散らす晴れやかな美しさの持ち主。
大変細身ですがジャンプは高く舞台映えし、オーラも表現力も十二分。婚約式の真ん中を踊るに納得のダンサーです。
エピローグの結婚式でのゴージャスな金色の頭飾りと真っ赤な衣裳もお似合いでした。
ニキヤとの対決は大迫力で、笑いながら怒っている姿がああ怖し。
ソロルと引き換えにネックレスをニキヤの手に握らせようと迫るところでは
最初はにこやかに私の言いたいこと分かるでしょう?と進み出つつも徐々に閻魔大王のような(褒め言葉)
おぞましい顔つきとなり、しかも音楽の抑揚ともぴたりと合っていて
泥沼愛憎劇ながらどこかスカッとする不思議な感覚に。
嬉しかったのは太鼓の踊りが入っていた点。いくらインドが舞台とはいえテーラーさんの
ガン黒女子高生(新国立劇場が開場した頃に流行っていた)のようなメイクには
やり過ぎ感も否めずぶったまげましたが、弾けっぷりは良し。
壺の副さんの華のある愛らしさにも癒され、頭上で不安定に揺れる壺にハラハラしつつも
作品中数少ない束の間の平和な瞬間を味わえました。
そして影のコール・ドは期待を遥かに上回る出来で心より拍手。
スロープは1段で新国立や谷バレエほど急降下ではなくジグザグ坂ではありませんが照明が暗め。
特に先頭は前に誰もいない状態ですから精神統一並の集中力と勇気が要る場面のはずで、
新国立では小野絢子さんも務めたポジションです。
この場面、先頭が危ういとドミノ倒しの如く後ろにまで影響がある中
トップバッターがしっかりとした足取りと背中で後に続く部隊を引っ張り、頼もしく映りました。
(後日分かりましたが清水美帆さんだったそうです)
寺院崩壊はもっとドッカンと大岩がごろごろ落下する衝撃が欲しいと思いましたが
寺院の象徴でもある大僧正が1人立ち尽くしてニキヤへの叶わなかった恋心と
神々の怒りに触れたことに対する後悔を胸に抱きながら幕が下りる演出は説得力がありました。
行くと必ずあちこちから○○先生綺麗!、先生おはようございます!といった声が聞こえてくる度に
(午後でもおはよう?ここは芸能界か?と1人ぼやいていた…笑)部外者はお断りな公演なのだろうかと
その昔バレエ協会の公演が苦手な時期も実はありましたが
近年は舞台のレベル、特に女性コール・ドが格段に良くなって演出も見応えがあり毎回楽しみになりました。
昨年の『眠れる森の美女』ではマリインスキーのセルゲイエフ版に沿った上質な舞台、
そして福岡雄大さんの鬘が似合わな過ぎる花婿候補は西洋史のコントを思わせ、忘れられません。
今回は酒井さんの初ニキヤ、互角の対決を見せた堀口さんのガムザッティ、そして整ったコール・ドと
どの場面からも目が離せず、大変満足度の高い公演でした。来年も楽しみにしております。
仕事先から直接上野に向かい、早めの夕食は東上野のスルタンにて作品にちなみインドカレー。
17時までランチメニューを提供するお店を見つけました。
ほうれん草のカレーがあったのは嬉しく、かなりのボリュームがありますが1000円札でお釣りがきます。
スルタンといえば『シェヘラザード』や『アラジン』、『海賊』など
数々のオリエンタリズム志向な作品に登場しますが
『海賊』は技術表現力とも益々高まりダンサーも充実している新国立でも制作して欲しいものです。
スルタンは大概ふくよかでのんびりとした年配者な印象がありますが
先日初めて若い男性に設定した版を映像で鑑賞。とても面白く鳥肌ものでした。
まだまだ知らぬ演出、作品は多々あり今年も発見の連続となりそうです。