Quantcast
Channel: アンデオール バレエ日和
Viewing all articles
Browse latest Browse all 388

奇抜で演劇性に富んだ『白鳥の湖』ほか多彩なプログラム 板東ゆう子ジュニアバレエ第11回発表会 8月7日(日) 《愛媛県西条市》

$
0
0

Photo

何時の間にかリオ五輪も閉会式を迎え、次回開催地の東京へのバトン渡しセレモニーが行われました。
そのリオ五輪開会式翌日、2週間以上前の話ではございますが
競泳の萩野公介選手が日本選手金メダル第1号となった日に愛媛県西条市で行われた
板東ゆう子ジュニアバレエ第11回発表会を観て参りました。
9年前からほぼ毎年足を運んでいる昨年盛大な20周年記念公演を成功させたスタジオで
21年目を気持ち新たにスタートを切る清々しさが伝わる舞台でした。

http://www.yukobando.com/板東ゆう子ジュニアバレエ第11回発表会.html

第1部は『ライモンダ』第3幕の結婚式より。十字軍時代のキリスト教社会とイスラム教社会の交わりを土台にしており
台本はヨーロッパ側の人々による制作のため両世界が絡む1、2幕は
どう演出を工夫してもヨーロッパ優位な話となりがちで、現代の世相を考えると全幕上演は非常に難しい作品です。
しかし繊細さと渋味が合わさったグラズノフの格調高い音楽に彩られた魅力あるバレエで
結婚式のみの抜粋であっても鑑賞できるのは大きな喜びであります。

記憶が確かであれば2010年に上演され今回5年ぶりで主演も含めキャストが変わり、新鮮な舞台。
前座として小さな生徒さんたちによる踊りが披露され、幕開けを楽しさ一杯に満たしてくれました。
本来はライモンダに求愛しようと突如宮廷にやってきた
サラセン人アブデラクマン(アブデラムなど表記はバレエ団によって様々)の手下たちによって
宮廷に不穏さを振り撒きながら踊られる曲ですが
明るい色合いのチュチュを着けた可愛らしい生徒さんたちが笑顔満開で踊る姿が目に入るとこちらも顔が綻ぶほど。
おめでたい結婚式の始まりを盛り上げる役割を果たしていました。

この作品における結婚式は例えば『眠れる森の美女』とは異なり
結婚に至るまでに紆余曲折あり試練あり、更には『コッペリア』とも違って喜劇ではない。
またお伽話ではなく史実、しかも戦争を背景にした作品であるため決して夢一杯花一杯な結婚式ではありません。
やや哀愁を帯びた儀式なわけですが、ライモンダ役の生徒さんが
愛する人と結婚できる幸福と異国の男性からの求愛を受けた過去といった
それまでの経緯を思い出しながら重みのある式であると受け止めているであろう心情を全身から放ち
ゲストの福田圭吾さんは威厳のあるジャンを好演され、じっくりと愛を確かめ合う素敵なカップルでした。
グラン・パ・クラシックで男性と組むのは生徒さんたちで周りに華を添えているのがゲストの女性ダンサー。
グラン・パ名物である一斉肩乗せリフトも綺麗に成功させ、お見事でした。
3幕中心の上演で楽しみであるのがヴァリエーションの曲。1、2幕の曲も挿入され、見せ場が増えているのです。
中でもホルン、オーボエ、フルートと吹奏楽器中心で奏でられ
通常2幕でライモンダによって踊られる不思議な曲で踊られた
Kチェンバーカンパニー・Kバレエスタジオの工藤雅女さんがきりりと端正で場を引き締め、
佐々木夢奈さん(佐々木美智子バレエ団)による1幕の夢の場第1ヴァリエーションでは
優雅でふわっと軽やかな風情を漂わせ、印象に刻まれました。

バレエ・コンサートでは2014年に大阪の川上恵子バレエスクール発表会でも披露された
THE MAN I LOVEを主宰の板東先生とゲストの山本隆之さんが
一昨年にも増して洗練された大人の世界を描き出しながら踊られ、醸す色気に悩殺。
複雑に絡み合うリフトも実に滑らかで惚れ惚れといたしました。
西条市が数分間だけニューヨーク夜のブルックリン地域に変わっていたのはいうまでもありません。

他にも快活で愛らしいシルフィードと、右往左往しながらもシルフが愛おしくて仕方ないのであろう
ジェームズが織り成す『ラ・シルフィード』や
生き生きと鮮やかな『海賊』など発表会の王道パ・ド・ドゥながら感情が深く込められ、自然と引き込まれました。

続いて『白鳥の湖』2、3幕。四国での初バレエ鑑賞が
9年前の板東バレエによる白鳥全幕でしたので懐かしさが込み上げ、一部抜粋ではあるものの感慨深し。
2幕(湖畔の場)はオーソドックスな演出ですが1幕から観ているかのようで
板東先生のオデットと山本さんの王子の出会いはオデットに溢れんばかりの愛を捧げる王子と
驚きながらも徐々に心を開いていくオデットの心の熱い通わせに震える思いがいたしました。
コール・ド・バレエは呼吸を合わせようという懸命さが伝わってより美しく揃って見え、集中力の持続は称賛もの。
オデットに忠実な、誇らしい侍女たちです。

そして極め付けは3幕でブルメイステル版に関西系ならではの奇抜な味わいが加わった演出でした。
花嫁候補が踊り終わるまではスタンダードな展開でしたがファンファーレが鳴り響いてからは一転。
ロットバルトの手下且つ何処の星から連れて来たと言わんばかりの
モダンで悪なる民族舞踊軍団が登場し客席がどよめきました。
中でも頭に長い羽飾りを装着し黒で整えたヴィジュアル系バンドのようなスペイン、
ピンク色や蛍光黄緑色のマッシュルーム型鬘を被ったナポリは大衝撃。度肝を抜かれました。
しかし不思議なことに眺めているうちに段々違和感が薄れていったのは全員嵌り役だったからこそでしょう。
ひょっとしたら板東先生がブルメイステルの本家モスクワ音楽劇場に留学なさっていたご経験から
構想を練られていたのかもしれません。

オディールを踊られた生徒さんの凄みも十二分。
民族舞踊団を含むロットバルトの手下たちを牽引している設定のため他の演出に比べより強さや統率力、
悪どい魅力が求められますが、ギラギラと大胆に舞台を支配する力に圧倒されました。
福田紘也さんの王子が結婚を申し込んで本当に良いか否か決断ができず迷う場面においても
両手を掴んで引っ張り、有無を言わせぬ迫力。
奇抜さとドラマの奥行きが絶妙な加減で噛み合い、正直発表会の白鳥3幕で
ここまで魅せてしまうとは大変感動を覚えました。近いうちに是非再演してほしい幕です。

最後は小さいお子さんたちも大勢出演する『白雪姫』。1幕仕立てですが
『ファウスト』や『ロミオとジュリエット』などバレエでも馴染みのある曲を繋げた構成で
大人でもたっぷりと楽しめるストーリーでした。
白雪姫は笑顔が可愛らしくすぐに小人たちからも好かれたことに納得、
狩人(王子も兼ね、あずさ二号は歌いません)は穏やかでスマート。
うさぎさんとリスさんが白雪姫の親友且つ動物たちのリーダー格と思われ、
小さい生徒さんたちが扮するこりすさんやありさん、小鳥さんや蝶々さんたちを優しく導いていて
ほのぼのとした気持ちになりました。

それから白雪姫といえば恐ろしい継母。ゲストの辻戸香世子さんがおどろおどろしく妖しく演じられました。
4年前Kチェンバーカンパニー公演での矢上恵子先生振付『Snow White』dechado~鑑~で拝見した
母親役が強烈でまたお目にかかれたらと願っておりましたので嬉しさもひとしお。
白雪姫が世界一美しいと知ったときを境に突っ走る狂気じみた姿には哀れさをも感じさせ
このたびもまた印象深く残りました。

花束投げのあるフィナーレも賑やかで楽しく、観る者をわくわく心躍る気分にしてくれる演出。
会場をあとにする誰もが足取り軽やかになっていたに違いありません。
また裏から支えてくださっている保護者の皆さんも目の回るような忙しさでしょうに
終始明るい笑顔で接してくださり感激いたしました。
益々パワーアップしていく板東バレエの舞台が今後も楽しみです。


Image_2
会場である西条市総合文化会館。
ちなみに広島県にも西条という名の地域がございますので検索の際にはご注意ください。


1
帰りは会場最寄駅である伊予西条駅近くの料理店市にて石鎚山のお酒で乾杯。


Image
お刺身と日本酒の組み合わせは最高でございます。


Photo_2
今回は前日から愛媛入りし、東洋のマチュピチュと呼ばれている新居浜の別子銅山へ
6年ぶりに行って参りました。土曜日の夜、五輪開会式ハイライトを視聴しながらホテル内にて愛媛のビールで一息。
観光日記もそのうち書いて参ります。


※このあと8月11日に佐々木美智子バレエ団『ロミオとジュリエット』、
8月15日に東京都世田谷区の貝谷バレエ団スタジオで開催された
『白鳥の湖』全幕日本初演を振り返るシンポジウムに行って参りました。これらも追い追い紹介いたします。





Viewing all articles
Browse latest Browse all 388

Trending Articles