気づけば新年度開始と同時に新元号が発表され、半月前の感想ですが悪しからず。
3月16日(土)、東京バレエ団『海賊』を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2019/lecorsaire/
※キャスト等はNBSホームページより抜粋
~ 東京バレエ団創立55周年記念シリーズ 1 ~
東京バレエ団 初演
「海賊」- プロローグ付 全3幕 -
振付:アンナ=マリー・ホームズ(マリウス・プティパ、コンスタンチン・セルゲイエフに基づく)
音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、リッカルド・ドリゴ、ペーター・フォン・オルデンブルク
編曲:ケヴィン・ガリエ
装置・衣裳:ルイザ・スピナテッリ
装置・衣裳協力:ミラノ・スカラ座
◆主な配役◆
メドーラ:沖香菜子
コンラッド:秋元康臣
アリ:池本祥真
ギュルナーラ:伝田陽美
ランケデム:宮川新大
ビルバント:井福俊太郎
アメイ(ビルバントの恋人):岸本夏未
パシャ:岡崎隼也
パシャの従者:永田雄大
第1幕 賑やかな市場
海賊たち:杉山優一、ブラウリオ・アルバレス、和田康佑、宮崎大樹、山田眞央、後藤健太朗、昂師吏功、山下湧吾
海賊の女性たち:中川美雪、秋山 瑛、髙浦由美子、涌田美紀、菊池彩美、酒井伽純、瓜生遥花、工 桃子
オダリスク:金子仁美
榊優美枝
吉江絵璃奈
第2幕 海賊が潜む洞窟
海賊たち、海賊の女性たち:海田一成 - 安西くるみ、 後藤健太朗 - 中川美雪、
昂師吏功 - 上田実歩、 山下湧吾 - 秋山 瑛第3幕 パシャの宮殿
薔薇:二瓶加奈子、政本絵美、金子仁美、中川美雪、涌田美紀、安西くるみ
花のソリスト:加藤くるみ、上田実歩、髙浦由美子、 榊優美枝、菊池彩美、酒井伽純
指揮:ケン・シェ
演奏:東京ニューシティ管弦楽団
協力:東京バレエ学校
沖さんのメドーラは軽やかできらきらオーラが降り注ぐ陽光の如く眩しく
美貌と可愛らしさ、気品が同居した容姿にもうっとり。
そして全身をダイナミックに使った踊りで舞台姿は大きく見えます。
登場しただけで照明が倍に増えたかと錯覚させる存在感を示しながら
コンラッドへの恋心を初々しくも大胆に表現。
ちょこっと拗ねただけでパシャがコロリとご機嫌になるのも頷け、同性でも目と頬が蕩けてしまいそうでした。
秋元さんは品格のあるコンラッドで、メドーラの前では紳士であっても
海賊のリーダーらしい豪快さもあり仲間たちの前では怖いもの知らずそうな頭領。
サポートが非常に上手く盤石で、パ・ド・トロワと寝室でのパ・ド・ドゥともに
沖さんの透明な海を泳いでいるかの如く気持ちよさそうな表情と伸びやかな四肢は脳裏に刻まれております。
会場を熱狂化させたのは池本さんのアリで、目を疑う滞空時間の長い跳躍にぶれぬ回転に大沸騰。
しかもよくガラで見かける勢い任せ状態ではなくあくまでクラシックの規範からはみ出ぬよう美しさを追求し
足音が殆どしない静けさを備え、低姿勢から顔をそっと上げる所作や
鳴り止まぬ大拍手にも笑みでは応えずにクールな表情を崩さずさらりと去って行き
メドーラとコンラッドを引き立てるといった奴隷である立場を弁え役に徹しての所作にも脱帽でした。
舞台にピリッとした空気を斬り込んでいたのは井福さんのビルバント。
コンラッドの仲間ではあっても企みを含んだ表情は現れただけで危機を予感させました。
コンラッドに対し怒り剥き出しで刃向かい、罠に陥れようと計画する姿は
常日頃からリーダーの統率には不満があったものと想像。
それまでは忠実な部下であっても不満が募り欲が膨らむと人間何をするか分からぬものです。
1幕だったか、ピストンパンパン踊り(正式名称ご存じの方いらっしゃいましたお教え願います)は
それはそれは軽快で観ているこちらも心浮き立つほど。
だからこそ、いかにして悪道に走るのか展開をわくわくさせられる場面でもありました。
哀しみを秘めた伝田さんのギュルナーラ、最初は自信満々な奴隷商人ながら
途中からはコンラッドたちによって呆気なく捕らえられてしまう
宮川さんのランケデムも人間味があり悪役であっても憎めず。
岡崎さんのパシャは剽軽な中にもおっとりとした気品もほんのりと備わり
メドーラに首ったけであっても悪戯されて杖を倒されてしまうやり取りはクスっと笑いを誘う一コマで
作品を彩る全てのキャラクターが生き生きとしていた印象です。
中でもホームズ版オリジナルのアメイを岸本さんが熱演。儚く大人しい役柄のイメージを抱きがちでしたが
ビルバントに寄り添いながら色艶たっぷりに踊る姿に引き込まれずにはいられませんでした。
優雅且つ溌剌と呼吸の合ったしかも美女揃いのオダリスクも印象深く、
穏やかな海や寄せては返す波を思わせる冒頭の曲調は何度聴いても耳に快し。
花園はピンク色が一気に広がる春めく情景で柔らかな光が窓からぼんやりと射し込む紺地の背景美術は
同じくスピナテッリさんが手掛けた新国立劇場バレエ団『ライモンダ』夢の場に似た、吸い込まれそうな描画。
メドーラの薄いピンク、コール・ドの明るめのピンクそれぞれが映え幸福感に溢れる場面でした。
先程と重複しますが衣装の魅力も挙げておきたい要素。上演決定の概要を読んだ際に
ルイザ・スピナテッリさんがデザインと目に入り安堵感を覚えたものですが
東洋人にもよく似合う繊細で品の良い色彩でミラノ・スカラ座が使用している既製衣装とはいえ着こなしがいたく自然。
一昨年イングリッシュ・ナショナル・バレエ団来日公演でホームズ版海賊を鑑賞し
濃い青を基調にしたデザインも眼福でしたが、スピナテッリさんの色彩感覚は
東京バレエ団のダンサーたちにも違和感なく溶け込んでいました。
国内の大型バレエ団の衣装といえば、某カンパニーの『眠れる森の美女』における
バレエ団オリジナルとしてゼロから作った事実も疑わしく思えるほど
一部を除いては東洋人に合わぬ更には舞台美術とのバランスが取れていない色合いには仰天し
一昨年昨年2年連続上演によって目は慣れてきたものの衣装はやはり大事でございます。
そして記事によれば配役も思い切った冒険をしたそうで、好印象。https://spice.eplus.jp/articles/228011
主要な役はホームズさんとの話し合いで決めたようですが他は階級関係無く公募とオーディションで抜擢したとのことで
中堅のソリストと研究生が同じ役で並んで踊ったりと新鮮味の配役が多かったもよう。
毎回東京バレエ団の公演に足を運んでいるわけではない私から観ても
とにかく主役から脇役に至るまで舞台のあちこちから勢いと弾けた楽しさが爆発していたのは明らかでした。
話は破茶滅茶で、例えば変装しての潜入と救助いった一昔前のコントのような流れがあっても
ホームズさんの手腕によってすっきりと楽しく2時間半にまとめられ
ベテランから若手までが結束しバレエ団の実力も存分に発揮された上質な舞台でした。
早くも再演を心待ちにおります。
帰りは当ブログお馴染みで最近は日本のバレエ団公演も多々ご覧になっている
ムンタ先輩(ムンタギロフさんがお好きな人生の素敵な先輩)と作品の世界に浸りつつトルコ料理店で乾杯。
偶然にも注文した種類は海を想起させるラベルと髑髏模様で、海賊の準備は整った。
そういえば、ムンタギロフさんはイングリッシュナショナルバレエ団時代
ホームズ版海賊でコンラッドを踊り映像化もされています。
にんじんや豆のディップが並ぶ前菜盛り合わせとクスクス入りムール貝。
ちぎりかけのトルコパンで失礼。
トルコのお酒でアニスが香る薬草酒ラク、アルコール度は約45%らしい。
ロックでも水割りでもお好みで、ツンと香って気持ち良し。
ほうれん草とチーズが入ったトルコの春巻きシガラ・ボレイ と一緒にいただきます。
国立新美術館にてトルコ文化年を記念したトルコ至宝展を開催中、お店前にもチラシが置かれていました。
オスマン帝国の君主が装着していた宝飾品が美しや。トルコ文化にご興味のある方はどうぞご来場ください。
https://turkey2019.exhn.jp/
バレエ『海賊』といえば、私が頻繁にDVDで鑑賞しているのは従来とは全くの別作品ともいえる
エンターテイメント要素を極力削ぎ落とした演出ですが賑やかな見せ場たっぷりな版も、
ギュルナーラもランケデムもビルバントも不在で代わりに若き暴君な王が物語の鍵を握る版も
双方それぞれ魅力があると感じております。
小田急線の代々木上原駅近くに突如として現れるモスク東京ジャーミイ・トルコ文化センターにも今年こそは出向き
トルコ浪漫に浸りつつ緻密な幾何学文様を鑑賞して参りたいと思います。