11月25日(日)、井脇幸江さん主宰のIwaki Ballet Company『ジゼル』夜の部を観て参りました。
https://ibc.yukie.net/giselle_ticket-2/
ジゼル:影山茉以(ポーランド国立バレエ団)
アルブレヒト:清水健太(ロサンゼルスバレエ団)
ヒラリオン:梅澤紘貴
ウィルフリード:遠藤康行
バチルド姫:井脇幸江
クールランド公爵:佐藤崇有貴
ベルタ:荒幡恭子
影山さんのジゼルは病弱であっても明るさと幸せを胸に抱く朗らかな少女。
目鼻立ちくっきり美人でやや勝気そうなお顔立ちのためジゼルは似合うか少々心配もありましたが
踊り出すと仕草やちょっとした顔の傾け方といい全ての踊りが可愛らしくいじらしく恋する乙女そのものでした。
身体の弱さを見せたくない一心でアルブレヒトには皆の輪に加わるよう促しているときでさえ
頬を緩ませながらアルブレヒトを見つめ、恋人を眺めているだけでも幸福に浸ってしまう
ジゼルの一途な愛には何度も心洗われたことか。
狂乱では幸福だったひと時を愛おしむように時折にっこり微笑む表情になったり、
そうかと思えば抜け落ちるように項垂れ姿勢を保つことができなくなっていく姿が痛々しく胸に刺さりました。
精霊になってからも僅かな温もりが感じられ、ミルタから守ろうと
アルブレヒトを幾度も優しく包むようなポーズでの細く長い腕が雄弁。
命は絶えても変わらず愛し続けていると心に訴えかけてきました。
影山さんは新国立劇場で毎夏開催のバレエ・アステラス2017で知り、
『眠れる森の美女』グラン・パ・ド・ドゥを華麗に踊って大トリを務め上げた姿が印象に刻まれ
いつか全幕で鑑賞したいと思っていたところIBCジゼルへの客演と聞き足を運んだ次第。
記憶の限りポーランド国立バレエ団が来日公演を行った話は耳にしたことがなく
日本の公演への客演も滅多にない機会と思われ
ドラマ性の強い全幕作品でお目にかかれて嬉しい一夜でした。
清水さんのアルブレヒトは、ジゼルを思いやりつつもほんのり遊びな要素も感じ取れるプレイボーイ型。
ノックダッシュ(今でいうピンポンダッシュ。良い子は真似てはいけません)で陰に隠れ、
ジゼルを気づかせようと放つ投げキスの音が会場2階席後方で聞いていてもまあ大きい。
我が鑑賞史上最大音量であった2006年新国立劇場客演のバンジャマン・ペッシュをも超える響きでした。
柔らかな着地も印象深く、2幕でミルタに踊らされる際のジャンプが
表情は苦しそうであっても真っ直ぐで綺麗なライン且つ許しを懇願する心情が
じわじわと全身から表れていて目に焼き付いた場面の1つです。
思えば清水さんの全幕舞台の鑑賞は初めてで、これまで昨年の大阪でのMRBガラや
今年9月に札幌市のニトリホールで開催されたファイナル・バレエといった抜粋形式の舞台のみ。
影山さんとは初共演かと思いますが、踊り方はお2人ともしなやかな強さがありながら
感情を丹念に描写していく考えは共通していると見受けられる良きパートナーシップで
また観たいと思わせるペアでした。
そして総監督で昼にはジゼルを踊られた井脇さんのバチルドが近寄りがたい凛然とした雰囲気のある令嬢で
逆らうのは到底不可能であろう威厳もあり瞬時に目を奪われる存在感。
ただ単に近寄りがたいだけでなく、子供から手渡された花を大事そうに持ちながら
村人たちを眺める姿は育ちの良い優しさを感じさせ、益々うっとり。
狂乱でのジゼルの豹変に戸惑いの色を次第に濃くしていく表現も細やかでジゼルの悲劇性をより際立たせていました。
魅力ある人物として描かれていたのが梅澤さんのヒラリオン。
ひょっとしたらアルブレヒトよりも上背がありそうなすらっとした体躯で
見栄えするだけでなく表現が熱く、髪が降り乱れるほどジゼルに何度も思いの丈を訴えるも
届かぬ恋には同情したくなる青年でした。
ヒラリオンもコール・ドの中に入って踊る振付が至るところに盛り込まれ、
村人たちと日々仲良く農作業に精を出しているであろう良き間柄にあると伝わる描かれ方です。
オーディションで各地のバレエスタジオから集まり所属団体はそれぞれ異なりながら
ウィリーのコール・ドはよく揃い、冷たさや恐ろしさを
整然淡々と紡いでいくさまに背筋までが凍っていきそうでした。
工夫を凝らしていたのがジゼルのお墓で十字架ではなく板状であるのは珍しいと観察。
見間違いでなけば紗幕のような透ける布地が施され、朝の訪れとともに再び森の奥へ去っていく場面において
お墓の後ろからジゼルが舞台袖に引っ込む際、姿がお墓越しに透けて見え徐々に消えていく様子に
より儚く幻想的な演出効果をもたらしていました。
井脇さんがお1人で立ち上げ、全幕やガラの上演も定期的に行い今回は主役にゲストも招いて1日2回公演。
ご自身も踊りながら総監督としてまとめ上げる統率力、良いものを見せようと追求する情熱に触れた思いです。
次回はどんな公演を企画されているのか今から楽しみにしております。
乾杯は新宿駅近くのドイツ居酒屋シュマッツにて新宿シュタルクビア。
そういえば、ジゼルといえば葡萄の収穫祭つまりはワインですが
ドイツ料理を食べに来るとついビールを欲してしまう管理人でございます。