9月10日(日)東京バレエ団〈20世紀の傑作バレエ〉「アルルの女」「小さな死」「春の祭典」を観て参りました。
http://www.nbs.or.jp/stages/2017/20ballet/program.html
-東京バレエ団 初演-
「小さな死」
振付:イリ・キリアン 音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
沖香菜子、金子仁美、三雲友里加、川島麻実子、崔 美実、奈良春夏
杉山優一、岡崎隼也、入戸野伊織、柄本 弾、ブラウリオ・アルバレス、秋元康臣
3月にジョージア国立バレエ団の公演で鑑賞し、いたく気に入った作品。
ガラでは抜粋で上演される機会は多いようですが全編通しでの上演は稀と聞き
東京バレエ団の初演を待ち望んでおりました。
極限にシンプルな格好をした男女のペアが身体を大胆に絡めたり伸びやかな造形を行いつつも
過程は丹念で優しく、次の展開をわくわくしながら想像しているうちにいつのまにか終わりを迎え
終始見入ってしまった作品です。
紺色らしきドレスが被さった車輪付きトルソーを用いての表現も何とも言えぬ不思議な気分を駆り立てます。
どのダンサーも甲乙つけがたい出来栄えでしたが、中でも川島さんの色気と
入戸野さんの自在に動く身体表現の豊かさに魅せられました。
-東京バレエ団 初演-
「アルルの女」
振付:ローラン・プティ 音楽:ジョルジュ・ビゼー
フレデリ:ロベルト・ボッレ
ヴィヴェット:上野水香
女性:波多野渚砂、上田実歩、髙浦由美子、中島理子、
榊優美枝、菊池彩美、柿崎佑奈、酒井伽純
男性:永田雄大、和田康佑、宮崎大樹、竹本悠一郎、
山田眞央、安楽 葵、岡本壮太、岡﨑 司
幕が開き、上野さんとボッレ、コール・ドの男女が手を取り合って横一列に並ぶ光景から
躍動感のある曲調とは反対に哀しみや重々しさが漂いました。
主役2人は悲嘆を抑えながらも寂しさが滲み出ているのに対し、コール・ド、特に女性たちは笑みを湛え
かえって怖さが増して悲劇の結末を想起させます。
ボッレと上野さんは長身で背丈の釣り合いは良かろうと思っていた程度でしたが(失礼)
拒絶や寄り添いといった心情を静か且つ細やかに表現し、しみじみとした味わい。
最後の窓ダイビングはボッレの大柄な身体が宙を舞い、大迫力です。
ゴッホの絵画のような渋い色合いの背景も郷愁があり、アルルへの思いを馳せました。
コール・ドは男性、女性ともにやや小粒な印象でプティが思い描く
洒脱な雰囲気は控えめであった点は否めませんでしたが、(衣裳の形からして女性陣が昔の女学生に一瞬見えた)
レパートリー入りしたのは喜ばしきこと。
それからプティ作品を踊る上野さんを鑑賞できたことも幸運。
実は新国立劇場バレエ団初鑑賞は2004年ですが新国立劇場での初バレエは
もっと遡って2001年の牧阿佐美バレヱ団『デューク・エリントン・バレエ』初演だったのです。
当時17歳位だった菊地研さんら新鋭揃いの舞台でしたが、
上野さんの日本人であろうかと目を疑いたくなる、しなるような脚線にたまげたのは今も鮮明に記憶しております。
移籍から10年以上経ち、ようやくバレエ団公演で久々にプティ作品
しかもバレエ団初挑戦の記念すべき公演で踊る上野さんを目にでき感慨深し。
『アルルの女』音楽は断片的にはあちこちで耳にしており、例えば最後のパ・ド・ドゥとファランドールのみならば
3年前のオーチャードホールガラにて吉田都さんと熊川哲也さんで鑑賞。
また新国立劇場バレエ団が上演した石井潤さん版『カルメン』でも数曲使用されています。
しかし全幕で観るのは映像を含めても今回が初。(20年ほど前にテレビ放送された公演、
確かパリ・オペラ座バレエ団だったかと思いますが録画したものの観ず終い…)
哀愁を秘めながらも変化に富んだ曲調は心にじわりと響き
ばらばら状態にあったジグソーパズルがようやく纏まって完成したような思いで鑑賞できました。
「春の祭典」
振付:モーリス・ベジャール 音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
生贄:岸本秀雄
2人のリーダー:ブラウリオ・アルバレス、和田康佑
2人の若い男:岡崎隼也、杉山優一
生贄:渡辺理恵
4人の若い娘:二瓶加奈子、三雲友里加、政本絵美、崔 美実
東京バレエ団の公演での全編鑑賞は相模大野で観たシルヴィ・ギエム全国縦断ツアー以来16年ぶり。
当時は音楽を聴いても訳が分からず、以降苦手なバレエ音楽上位3曲入り状態が続いておりましたが
先月に生演奏で上演された小林紀子バレエシアターのマクミラン版を観て音楽の魅力に目覚めた経緯もあり
前回の何倍も堪能。
序盤の男性のみで踊られる肉体がぶつかる凄まじさに圧倒され期待感を抱かせました。
岸本さんの孤絶感、もがき苦しんでいても力強さをも示す渾身の生贄は幕開けから存在感があり
全員似通った衣裳であっても、また久々のバレエ団鑑賞の者でもすぐさま主役と分かったほど。
渡辺さんは荒々しい群舞の中でも透き通るような神々しさ、不思議な魅力を醸しすらりとした体型も目を惹きました。
もう1人目を惹いたのは前日には生贄を踊られた入戸野さん。群舞にいても技量の高さが際立つのか目立ちました。
(新国立の研修所出身者の活躍はやはり嬉しい)
小林バレエでも感じましたが音楽とバレエを同時に鑑賞すると、
けたたましさに辟易していたはずの音楽も緩急がついた、聴き応えある流れであると発見。
あの難曲に大人数をぴたりと嵌め込み計算し尽くされたフォーメーションの展開、
マクミラン版より前の1959年の制作とはとても思えぬ大きく斬り込んだ解釈には唸るしかありません。
ストラヴィンスキーといえば、『春の祭典』誕生秘話やココ・シャネルとの禁断の愛について描かれた映画を
何年か前に劇場で鑑賞。曲が苦手であり、また大人同士の官能的な愛情表現に思わず目を背けてしまい
内容の記憶がほぼないに等しいのが惜しまれます。春祭が好きになった今、もう一度観たい作品であります。
公演タイトル通り、まさに20世紀の傑作を集めた一挙3本立て公演は予想を遥かに上回る満足度で
今も春祭とアルルの音楽が脳内を旋回。この手の複数作品の同時上演は今後も続けて欲しいと願います。
そして今回も開演前や幕間にレクチャーを行ってくださった
東京バレエ団ファンでありベジャール作品に精通している友人には深謝。
バレエ団、作品の魅力に触れ、より楽しく鑑賞できました。